第236話刑事から大旦那への連絡 麗の転居計画

文字数 1,274文字

京都九条家の大旦那に、馴染みの刑事から連絡が入った。
「大旦那様、フィレンツェの恵理と宗雄の身に変化が」
大旦那
「何や、釈放か?」
刑事の声は厳しい。
「まさか、恵理は癌が発覚、しばらくは入院」
「相当に状態が悪いとか」
大旦那
「そうか、すでに他人や、どうもしない」
「それで宗雄は?」
刑事が含み笑い。
「刑務所で、他の囚人と喧嘩して、鼻の骨を折られ」
「そもそも、宗雄から仕掛けた喧嘩らしく」
大旦那
「それで、怪我の経過はどうや」
刑事
「何やら、変な菌が傷口から入ったらしく、怪我以上に、それが危険やと」
「虫の息らしいと」
大旦那の声は低く、冷たい。
「まあ、両方とも、血縁やない」
「後は任せる」
刑事はククッと笑った。
「わかりました、適当に処理しときます」

刑事との電話を終え、大旦那はしばし、考える。
「うまいこと、厄介払いや」
「まあ、すでに縁は切れとる」

宗雄の、かつての「妻」奈々子を思った。
「ほんま、何を話しても、反応が弱い」
「誰かにされるがまま、何かされたら泣くだけや」
「だから、宗雄が麗を苛めても、あの弱い性格では見ているだけや」

そして、麗を思う。
「麗は、そんな奈々子を見切って・・・見限って、ひたすら耐えた」
「馬鹿にされ、殴られ蹴られ、じっと心を殺して、身体の痛みに耐えきった」
それを思うと涙も出て来る。
「辛かったやろうなあ・・・」
「痛かったやろうなあ・・・」
「子供に振るう大人の男の暴力や」
「住む家では宗雄に虐待され、京都のこの屋敷に来れば、恵理と結にも」
「18年間、何を楽しみに生きて来たんや」
「何の楽しみもなかったやろ、あんな仏頂面になるのも、当たり前や」

「それでも・・・」
大旦那は、目を閉じた。
「そこまでの頼りない奈々子と蘭の引っ越しで、麗はわしに、謝って来た」
「ご迷惑おかけしますと」
「深いなあ・・・麗の心は・・・」
「でも、わしは奈々子では麗の足かせになるだけやと思う」
「だから邪魔するなと、指示をした」
「18年も麗を守れなかった女に何ができる?」
「奈々子は麗の邪魔でしかない、ということは九条家の邪魔、京の邪魔や」

大旦那は考えを決めた。
「様子を見て、麗は引っ越しさせる」
「不動産に手配して、もっと立派なアパートに」
「いや、一軒、買い取っても構わん」
「とても、あんな小さなアパートでは九条家の恥や」

その考えのもとに、さっそく不動産部の麻友に連絡。
「あのな、麗をもっと大きなお屋敷に」
「あんなちっぽけなアパートでは、あかん」

麻友も、反応は速かった。
「そうおっしゃられるかと思いましたので、目星はつけてございます」
「高輪なのですが、これも九条家に縁があるお方の物件」
「新築後、約5年、庭は広く、建坪が・・・75坪くらい」
「ただ、本人はご高齢、介護者も相続人も無く、1年前から施設に入っております」
「今は、委託を受けまして、私ども不動産部で管理しております」
「ですから、いつでも入居可能です」
「はい、麗様の承諾で、お引越しから何から全て私が」

大旦那は、麻友の提案を良しとした。
そして思った。
「麻友も頭が切れる、立派な候補や」
大旦那の顔が、ようやく和らいでいる。
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