第４４８話麗と葵の学食　その後は喫茶店デート

学食は、相当な行列になっているけれど、さすがに学生は選ぶのが速い。
スムーズに前に進むことができる。

麗は、チャーシュー麺、葵はチャーハンに決め、テーブルに運ぶ。
麗
「まあまあの味、空腹を満たすには十分」
葵
「チャーハン、美味しいです、どんどん口に入る味」
麗
「他人の目を気にしない食事のほうがいいかな」
葵
「まあ、気楽で」

葵が麗に質問。
「麗様は高校時代のお昼は？」

麗は、少し言葉を選ぶ。
「パンを売りに来ていたので、ほとんどサンドイッチと珈琲牛乳かな」
実態は、奈々子が、宗雄の麗に対する暴行を恐れて、麗の弁当は一切作らなかったからになるけれど、葵に言う必要はない。

葵は、そのままに受け取る。
「そうですか、サンドイッチも好きです、簡単に食べられて」
「京都にもサンドイッチが有名なお店がありまして」
「フルーツクリームサンドが、大人気」
と、にこやかに話す。

麗は、あまり表情を変えない。
「女子向けで、そういう華やかな味が似合わないかなと」
「時代和菓子などと言いながら、私には・・・」

葵は、そんな麗をなごませたい。
「ご案内しますよ、京の街を」

麗は、少しなごむ。
「できれば、おしのびがいいけれど」
「京の街を自由に歩きたいのは、事実、そう思っているので」
「寺社とか、老舗も、九条の身分を隠して、本当の姿を見たいなと」
そこまで言って、一呼吸。
「当分、そんな時間はないかな」と、いつもの表情に戻る。

学食を出て、また二人で午後の講義を３時まで受講、その後は吉祥寺での夜のジャズコンボの演奏まで、少々の時間が空いた。

麗は葵の顔を見る。
「たまには、久我山で降りて、時間をつぶそうかと」
葵は麗の意図が、よくわからない。
「アパートです？」
麗は首を横に振る。
「確か、美味しい珈琲を出す店があって」
「そこに寄ろうかなと」
葵は、キョトンとした顔。
その喫茶店が思いつかないらしい。
麗は、やさしい顔。
「駅北に、葵さんのアパートへの道とは逆方向になるので、わからないかもしれない」
「４月の下旬に、行ったきりでね」

葵は、麗に誘われたので、うれしくて仕方がない。
「はい！ご相伴します」と、麗に案内されるままに井の頭線に乗り、久我山でおりて、その喫茶店に入る。

麗はコロンビアを飲み、葵は今時貴重なウィンナ珈琲を飲む。
葵
「はぁ・・・知りませんでした・・・こんな雰囲気のあるお店、美味しいし、品がある」
麗
「うん、通いたかったなあと、高輪からだと少し面倒でね」
「珈琲豆も、ここのは美味しい」

葵は、麗からの言葉が、全く自然、ますますうれしく感じている。