第243話麗は隆に演奏を聴かせ、奇跡を起こす。

文字数 1,153文字

転居話も決着がつき、麗は香料店の隆の見舞いのため、お屋敷を大旦那と茜を伴い出発した。
途中、楽器店でキーボードとヘッドフォンを購入、そのまま隆の入院する病院に入った。

病室には、晃も待っていた。
そして、深く頭を下げる。
「ほんま、ありがとうございます」
「お見舞いに加えて、久我山への奈々子と蘭の引っ越しまでお世話をいただいて」
「九条財団へのお話も、本当に有難い限りです」

麗は、晃の手を取る。
「いえいえ、全ては大旦那の配慮で」
そして隆の顔を見る。
「隆さん、お久しぶり」
「この間よりは、いい顔している、かっこいいよ」

茜は隆の手を握る。
「そうやねえ、肉が盛ってきた」

看護師が隆の状況を報告する、
「先週のお見舞い以降、食欲が増して、全部出したものを食べるようになりました」
「毎日、麗ちゃん、麗ちゃんって、笑顔で話されて」
「目の光も、違って来ました」
「担当医師も驚くほど、身体の力が増しました」

麗は、もう一言。
「蘭も、落ち着いたら連れて来るよ」
「逢いたいと思ってるはず」

隆は、その言葉で、ホロホロと涙。
「あーーー蘭ちゃんかあ・・・懐かしいなあ・・・」
「一緒におままごとして・・・可愛かったなあ・・・」
「逢いたいなあ・・・麗ちゃん、連れて来てよ・・・」
「もーーー・・・麗ちゃんには、いつも元気づけられて・・・」

麗は、何も言わなかった。
そのまま、隆の耳に、ヘッドフォンをセット。
そのまま、キーボードで何かの曲を弾き始める。

泣いていた隆が、笑顔に変わった。
「うわー・・・これ・・・好きや・・・」
「モーツァルト?はぁ・・・楽になる」
「こういうの聴きたかったんや」
「何や、身体の痛みが消えていく」
「はぁ・・・ええなあ・・・麗ちゃんのピアノ」

麗は、顔を少しだけやわらげる。
「それはモーツァルトだからだよ」
「少し変えるよ」

すると、隆の顔が、また変わる。
「ほー・・・これも懐かしい」
「トロイメライ?麗ちゃんの得意な曲で」
「何度もリクエストしたなあ」

トロイメライも終わり、麗はまた曲を変えたようだ。
隆が、フッと笑う。
「へえ・・・麗ちゃんのクラプトン?」
「これ・・・ティアーズ・イン・ヘブン、大好きや」
「ますます、元気になる・・・」

麗が、そんな隆に何か小さな声を耳元でかける。
すると、隆に異変が起きた。
いきなり、小さな声ながら、歌い出している。

これには、普段、隆を見ている看護師も晃も、うれし涙が止まらない。
看護師
「麗様は・・・癒しの神?奇跡です、こんなの」
晃は大旦那にすがって、やっと立っている状態。
「はぁ・・・まさか、こんなことが・・・」

麗は演奏を終え、隆の耳からヘッドフォンを外した。
「隆さん、もっと大きな声が出るように、練習しておいて」
「今度、蘭も連れて来るから、一緒に歌おう」

隆は、実にスッキリとした笑顔。
麗の手を力強く握っている。
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