第221話佐保と鎌倉香料店取材(2)

文字数 1,096文字

鎌倉小町通りの香料店では瞳はともかく、美里はとにかく落ち着かない。
何度も鏡の前で、髪を直したり、化粧まで直す。

それが度を越えているので、瞳が諭す。
「美里、麗ちゃんは、そんな表面のこと、気にしないよ」
「それに、もう麗ちゃんなんて言えないの」
「手が届かない麗様なの」

美里は、それでも落ち着くことはない。
「だいたい、桃香が近すぎる」
「久我山と吉祥寺でしょ?目と鼻の先」
「まあ、今は相手にされてないみたいだけど」
「あんな、感情だけの女」

瞳は、「今は美里が感情だけになっている」と思うけれど、それは言わない。
下手な喧嘩をして、ひどい顔の美里を「麗様」に見せたくはない。
仮に、麗の機嫌を損ねれば、京都の香料店との関係だけではない、九条家との関係にもひびが入る。
そして、それが吉祥寺の香苗や、麗の「母役」に知られれば、それも恥ずかしい。

瞳は、話題を変えた。
「それもいいけれど、麗様にお話することを考えなさい」
「少し困っているかもしれないよ、実は」

美里も、それには頷く。
「そうだよね、女性誌の記事か」
「麗ちゃん・・・いや麗様は、どう書くのかな」
「源氏とか平安期の香りは詳しい人」
「それは香料店の晃さんに、徹底的に仕込まれたから」


「むしろ、若い女性として、麗様をリードするくらいでないと」
「ここの香料店が取材を受ける立場なの、それをわきまえて」


さて、麗は佐保と、湘南新宿ラインに乗った頃から、打ち合わせをしている。

「香料店の取材を載せる女性誌のターゲットは?」
佐保
「購買層で言うと、高校生から50代くらいかなあ、幅広い」

「そうなると、軽くなり過ぎても」
佐保
「香料とか、香水って、高級品イメージがあるから、ある程度の品格も欲しい」
「もちろん、難しくなり過ぎても、読まないかな」

「カタログとかパンフレットみたいになっても、面白くない」
「それぞれの香水とか、香料をつけるに適した時間とか、場所を読みやすい文章で」
「なるべく、柔らかい文章ですね」
佐保
「そうだね、そんな感じかな」
「店、香水、香料・・・店員さんの写真をきれいに」

そんな話になり、鎌倉駅に着き、小町通りに入った。
佐保
「相変わらず、雑踏だね」

「外国の人が多い、京都もそうだけど」
佐保
「古くからの鎌倉彫の店が減った」
「ゴツイからかな、今風でない」

「実用性には優れているけれど・・・」
「文化が軽くなったのかも」
「どこに行っても、同じような店ばかり」

佐保と麗が歩みを進める先に、取材する香料店が見えて来た。
佐保が麗の脇をつついた。
「女の子が手を振っているよ、麗君」
「今日は無視できないね」

麗は、それでも手を振ろうとはしない。
いつもの無表情で、歩いてる。
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