第138話隆と麗

文字数 1,111文字

麗と九条の大旦那、茜が新幹線にて京都に向かう時間、京都の香料店の晃は病院で、隆と話をしている。


「隆、麗がもうすぐ京都に来るんや」
隆は、必死に目を開ける。
「ああ、麗ちゃんか、見たいな」
その目に涙がたまる。

「見たいじゃない、見るんや」
隆の声は弱い。
「ああ、見る、見るんや」
「話もしたい・・・最後に・・・」

「そんな情けないこと言うな」
「最後やないで、まだまだお前には頑張ってもらわんと」
隆は目を閉じた。
「無理や、そんな・・・目も開けられん」
「でも・・・早う見たい・・・麗ちゃん」
「可愛かったな、麗ちゃん・・・一緒に虫取りをして・・・」
「また・・・話・・・」
隆は、そこまでしか話せなかった。

看護師が血圧計を見る。
「ひどく低下しています」
「上が、80くらいで、下が40・・・これ以上はお控えください」

晃は、その声に従うしかなかった。
看護師に頭を下げて、隆の病室を後にした。

晃は、病院に来るのも帰るのもタクシーを使っている。
「行きは何とかなるけど、帰りは気が揺れて、まともに運転は無理や」

そのタクシーの中で、いろいろ考える。
「隆は、麗の名前だけには、必ず反応する」
「隆も麗が好きやった」
「やさしい麗、少し気弱な隆をいつも慰めて」
「あのまま育てば、本当に幸せやったのに」

そう思うと、晃も涙が出て来る。
「何が辛いって・・・我が子が自分より先に逝くほど、残念なことはないで」
「希望をむしり取られる、そのものや」
「何を悪いことしたって言うんや」
「何が無常の世や・・・そんなの慰めにもならん」
「あの金ばかりを欲しがる坊主ども・・・金だけとって、何をしてくれた?」

そのスマホには、茜から麗が九条家に戻る旨を承諾したとのメッセージ。

晃は複雑。
「九条のためにはいい」
「麗は・・・どうやろ・・・辛いかもな」
「仕方ないと思うても・・・」
「京のためにも、九条家が落ち着くのはいい」
「頭がいい子や、九条のためにも、京のためにも、悪いことはせん」
「まあ、それは散々苛められたからかもしれん、頭を使うのも」
「人の心理を読むには長けているな」

「隆は麗を待つ、それだけが支えかもしれん」
「仲がいい、兄弟みたいやったなあ」
「二人で真っ黒になって虫遊びを」
「その日焼けした顔で、九条家に行くと、恵理と結が怒って殴りつける」
「何や!その汚い顔って!」
「麗は、度胸も根性もある子や」
「隆をかばって、自分が殴られ蹴られ、その間に隆を逃がす」

タクシーは香料店に到着した。
香料店の中に入ると、病院の看護師からの電話。

「隆さん、はっきりした声で」
「麗ちゃんに会うよ、元気にならないとって」
「今、本当に珍しくベッドから起き上がりました」

晃は、スマホを持ったまま、泣き崩れている。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み