第111話「母」奈々子からの電話

文字数 1,111文字

「母」奈々子は声が震えている。
「麗には言っておこうと思って」
麗は不安を覚える。
「何かあったの?」

奈々子は、また声が震えた。
「父さんが、イタリアのフィレンツェで逮捕されたって」
麗は背筋が冷たくなった。
「え?ほんと?何したの?」
奈々子は、少し落ち着いた。
「麻薬事件らしい」
「さっき、家に警察が来て、父さんの部屋から何から家中を全部調べて」
麗は、不安。
「あの家で麻薬をしていたの?」
奈々子
「いや、無いよ、そんなの、何も見つからない」
「警察も確認のためとだけらしい」
麗は首を傾げた。
「じゃあ、どうして・・・何でフィレンツェで?」
奈々子が口ごもる。
「それが・・・恵理さんと・・・一緒で」
「一緒に逮捕されたみたい」
麗は、実に嫌な気分。
「どういうこと?」
奈々子も嫌そうな声。
「知らないわよ、仲が良かったし」
麗は話題を変えた。
「当分、帰って来れないの?」

奈々子の声が落ち着いた。
「警察が言うのに、主犯は恵理さん、父さんは現場にいて、仕分けを手伝っていた」
「それもイタリア警察からの情報になるけれど」
「そもそも言葉の関係もあるし、ある程度は時間がかかる」
「犯罪の全容を解明しないと、イタリア警察も困るだろうし」
「その前に、恵理さんは、あちこち」
「ロンドン、パリ、ベルリン、いろいろとセレブツアーをしている」
「そこで接触した全てが捜査対象になる」

麗は、ため息。
「ただフィレンツェに行っただけではないんだ」
「仕分けを手伝っていたとなると、面倒だね」
奈々子が声を低くした。
「いろいろ考えて離婚するよ」
「あんな人に、犯罪者に未練も何もない」
麗は。言葉に詰まる。
「蘭は?」
奈々子も言葉に詰まった。
「蘭は・・・泣いている」
「でも、どうにもならない、いつ戻って来るかわからない犯罪者の娘にはさせたくない」
麗は、また不安。
「晃叔父さんとか、九条様は?」
それが不安、特に、明後日逢う九条の大旦那や茜に何と話をしていいのか、わからない。

奈々子の声が強くなった。
「この情報は、晃叔父も知っている」
「九条様も御存知だよ」
奈々子は、ここで少し間をおいた。
「麗は、全く心配ないよ、安心して」

麗は意味不明。
「心配がないとは?」

奈々子の声が、湿った。
「麗は・・・本当の家に戻るの」
麗は、またしても意味不明。
「母さん、わからない、しっかり説明して」

奈々子は、少し泣いた後、また震える声。
「九条様が麗のアパートに来られるんでしょ?」
「その時に、全てがわかる」

麗の頭は、モヤモヤとして、何を言っていいのかわからない。

奈々子の口調が変わった。
「麗様・・・私と蘭が同席いたしたいのですが・・・よろしいでしょうか・・・」

麗は、ますます意味不明、何と答えていいのか、さっぱりわからない。
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