第484話奈良小旅行(6)食事、そして元興寺

文字数 1,436文字

新薬師寺前からサロンバスで移動、興福寺隣、春日大社一の鳥居の前の老舗料亭での豪華な食事となった。
先付が蟹と水菜のお浸しに柚子を振りかけたもの。
椀物が大和豚の沢煮に蕪と白髪ねぎ。
お造りが鯛の炙り、鰤、鮪。
しのぎが、蒸し寿司で穴子。
口取は帆立と百合根の茶碗蒸し、林檎の白和え 人参の金平
焼物は大和牛の塩焼き。
それ以外にも、どんどん出て来るので、全員が食べるのに懸命。

小食の麗も残しながらも何とか食べる。
「一つ一つの素材が新鮮で、滋味が深い」
茜も納得。
「奈良の大らかな味と思う、食べていてホッとする」

その他のお嬢様方も、満足して食べている。
「楽しい旅行やなあ、一泊したいくらいや」
「そやな、奈良もいい感じや」
「京都より、のびのびしとる」
「あまり街衆の目を気にせんでもかまわんし」
「何しろ千年以上前から、うちらのご先祖が歩いていた場所や、故郷や」
「そう思うと、その遺伝子に呼ばれたんやろうし、反応しとる、何も違和感がない」

豪華な昼食の後は、2時間の自由時間となった。
麗は、そのまま坂を下り、猿沢の池を右手に見ながら、元興寺方面に歩く。
ただ、自由時間と言っても、結局は麗から離れたくないので、全員がゾロゾロと歩く。

麗が昭和レトロ風の和菓子店に立ち寄ると、女性たちも全員が何かを買い求める。
「あらーーー!ええやん、この感じ、昔懐かしの」
「そやなあ、ホッとする、老舗や」
「気取らん店は好きや、ほんま」
「かりんとうが、美味しそう、買う」
「うちは、お饅頭、あれほど食べたのに、まだ入りそうや」
「とてもダイエットなんて言ってられん」

結局、そんな状態になってしまったので、麗は我慢して待つ。
茜が麗を見て、クスクス笑う。
「なかなか、自由になれんね、麗ちゃん」
麗は、やわらかな顔。
「みんな喜んでくれるようで、安心かな」

和菓子店から元興寺までは、至近の距離なので、5分もかからない。
麗は、元興寺に入って、また驚いた顔。
「日本最古の飛鳥寺からの伝統があって、世界遺産なのに、全然気取った感じがない、興福寺とも東大寺とも全然違う」
「庶民のお寺、そんな感じ」

まずは、極楽坊の名がある本堂に入り、本尊に手を合わせた後に見学。
夥しい数の地蔵菩薩像に驚く。
麗は地蔵を注意深く見て、頷く。
「地域の人とか縁のある人からかな、そういう感じが好き」
葉子が説明。
「決して国からとかではなくて、地域や縁のある人々がこのお堂に収めたいとのことで、集まりました」

本堂を出て屋根瓦を見る。
葉子
「あそこに、飛鳥時代の瓦が乗っております、色が違うのでわかると思います」
「飛鳥で焼いて運んできたのでしょう」

「千四百年以上も前・・・屋根にも手を合わせとうなる、ずっと本堂を守っていただいて」
その茜の言葉で、女性たちも手を合わせている。

麗は、瓦よりも、浮図田と言われる、目の前の整然と数多く並べられた石塔と、そのほぼ中央に立つ地蔵菩薩に注目している。
尚、浮図とは仏陀のこと。
そのため、浮図田は文字通り仏像、仏塔が稲田のごとく並ぶ場所という意味になる。

麗の顔が、またやわらかになった。
「たくさんの人の思いを、地蔵菩薩がしっかりと受け止めている感じかな」
「これは、素晴らしい、仏教の理想の一つ」
「来られてよかった」
そして麗が、地蔵菩薩に手を合わせると、一行も同じように手を合わせる。

手を合わせた麗は、全員を見て恥ずかしそうな顔。
「ホッとする感じがあって、これが仏教の理想とか、救いであって真理ではないかと」

その麗の言葉に、全員が頷いている。
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