第379話「祖母」鈴村八重子との面会を前に、麗は自分の出生に苦しむ。
文字数 1,454文字
さて、紺のブレザースーツにボタンダウンの白シャツ、えんじ色のニットタイ姿の麗が、部屋から廊下に出ると、お世話係たちが、大騒ぎで駆け寄って来る。
「あらーーー!麗様!モデルさんみたいや」
「はぁ・・・ますます男前です」
「キチンとして、可愛いって・・・ドキドキします」
「上品な感じで・・・うん、一緒に街歩きしたいわぁ」
そんな大騒ぎが続くので、麗は困惑。
こんな能面しかない自分が、どうして騒がれるのか、全く理解できない。
それでも「九条後継だから、お世辞を言っているだけ」と思い、ようやく気持ちを落ち着かせる。
茜も部屋から出て来た。
「おや、麗ちゃん、似合うなあ」
とにかく、本当にうれしそうな顔。
「財団の冊子の表紙にしたいくらい」とまで言ってくるので、麗は強く首を横に振る。
その後は、食堂で京風懐石の昼食。
大旦那や五月に目を細められながら、麗は着席。
大旦那は上機嫌。
「若い頃によう流行ったなあ、思い出すな」
五月は深く頷く。
「鈴村さんも喜ぶでしょう」
ただ、麗は周囲から言われることには頷く程度。
とても何か反応する余裕がない。
いつもの通り、ゆっくり目に食事をするだけ。
また、せっかくの京懐石も、残し気味。
その麗が考えていることは、とにかく「祖母」鈴村八重子に、「どんな顔をして会えばいいのか」ということ。
「それ以前に、まず俺は何と言えばいいのか」
「何を言って、どんな顔をして会えばいいのか、それもわからない時に弟子入りとか」
「古今の勉強会の講師を頼みたいと思うなど・・・」
「順番そのものを間違っているではないか、まさに未熟の極み、実に恥ずかしい」
「祖母」鈴村八重子が、どんな思いで、今までの18年間を過ごしたのか、そして今日、どんな思いで九条家に入って来るのか、それを考えれば、麗がお願したこととか、構想などは実に程度の低い戯言でしかない。
「九条家後継の・・・父兼弘に、愛娘と関係を持たれ」
「俺を身籠ったら、恵理に追跡されて殺された」
「いや、そもそも俺が生まれなければ、母は殺されなかったかもしれない」
「勤めていた香料店を首になる程度で済んだかもしれない」
「そうなると、結果的に俺が生まれたことが、母殺しの最大の原因ではないか」
「鈴村八重子さんを苦しめて来たのは、結局、俺が生まれてきてしまったから」
「結局、俺の出生が諸悪の原因だとしか思えない」
「仮に、大旦那から、その後の生活を保障されていたとしても」
「万が一、鈴村八重子が俺の誕生を喜んでいたとしても」
「18年間も、顔を見ることはできなかった」
「九条家は恵理と結、宗雄の凶行を危険と思ったのかもしれないけれど」
「そんなことは、鈴村八重子さんから見れば、九条家の問題」
「何より、実の娘を殺され、その孫とも逢えない生活が18年も」
「どれほどの苦しさ、辛さ、悲しさ、寂しさの18年間」
「おそらく九条家を恨み、その九条家を支える京社会も恨んだと思う」
「結局、身分か・・・決して逆らえない身分故、何も言えなかったのか」
麗は、九条家に来るたびに、恵理と結に、苛められ地面に座らされ、冷や水や、酷い時は泥水まで頭から、かけられたことを思い出す。
「あはは!ゴミ虫の麗!」
「泥まみれや、よう似合う、それで充分や」
「は?靴なんぞいらん、裸足や、麗なんぞ」
麗が自分の出生を悩み、恵理と結の言葉を思い出していると、茜が心配そうな顔。
「なあ、麗ちゃん、半分も食べとらん」
「口に合わん?料理長が心配しとる」
麗は、湧き上がる苦しい思いを、懸命にこらえた。
「大丈夫、美味しい」とだけ言い、再び食べ始めた。
「あらーーー!麗様!モデルさんみたいや」
「はぁ・・・ますます男前です」
「キチンとして、可愛いって・・・ドキドキします」
「上品な感じで・・・うん、一緒に街歩きしたいわぁ」
そんな大騒ぎが続くので、麗は困惑。
こんな能面しかない自分が、どうして騒がれるのか、全く理解できない。
それでも「九条後継だから、お世辞を言っているだけ」と思い、ようやく気持ちを落ち着かせる。
茜も部屋から出て来た。
「おや、麗ちゃん、似合うなあ」
とにかく、本当にうれしそうな顔。
「財団の冊子の表紙にしたいくらい」とまで言ってくるので、麗は強く首を横に振る。
その後は、食堂で京風懐石の昼食。
大旦那や五月に目を細められながら、麗は着席。
大旦那は上機嫌。
「若い頃によう流行ったなあ、思い出すな」
五月は深く頷く。
「鈴村さんも喜ぶでしょう」
ただ、麗は周囲から言われることには頷く程度。
とても何か反応する余裕がない。
いつもの通り、ゆっくり目に食事をするだけ。
また、せっかくの京懐石も、残し気味。
その麗が考えていることは、とにかく「祖母」鈴村八重子に、「どんな顔をして会えばいいのか」ということ。
「それ以前に、まず俺は何と言えばいいのか」
「何を言って、どんな顔をして会えばいいのか、それもわからない時に弟子入りとか」
「古今の勉強会の講師を頼みたいと思うなど・・・」
「順番そのものを間違っているではないか、まさに未熟の極み、実に恥ずかしい」
「祖母」鈴村八重子が、どんな思いで、今までの18年間を過ごしたのか、そして今日、どんな思いで九条家に入って来るのか、それを考えれば、麗がお願したこととか、構想などは実に程度の低い戯言でしかない。
「九条家後継の・・・父兼弘に、愛娘と関係を持たれ」
「俺を身籠ったら、恵理に追跡されて殺された」
「いや、そもそも俺が生まれなければ、母は殺されなかったかもしれない」
「勤めていた香料店を首になる程度で済んだかもしれない」
「そうなると、結果的に俺が生まれたことが、母殺しの最大の原因ではないか」
「鈴村八重子さんを苦しめて来たのは、結局、俺が生まれてきてしまったから」
「結局、俺の出生が諸悪の原因だとしか思えない」
「仮に、大旦那から、その後の生活を保障されていたとしても」
「万が一、鈴村八重子が俺の誕生を喜んでいたとしても」
「18年間も、顔を見ることはできなかった」
「九条家は恵理と結、宗雄の凶行を危険と思ったのかもしれないけれど」
「そんなことは、鈴村八重子さんから見れば、九条家の問題」
「何より、実の娘を殺され、その孫とも逢えない生活が18年も」
「どれほどの苦しさ、辛さ、悲しさ、寂しさの18年間」
「おそらく九条家を恨み、その九条家を支える京社会も恨んだと思う」
「結局、身分か・・・決して逆らえない身分故、何も言えなかったのか」
麗は、九条家に来るたびに、恵理と結に、苛められ地面に座らされ、冷や水や、酷い時は泥水まで頭から、かけられたことを思い出す。
「あはは!ゴミ虫の麗!」
「泥まみれや、よう似合う、それで充分や」
「は?靴なんぞいらん、裸足や、麗なんぞ」
麗が自分の出生を悩み、恵理と結の言葉を思い出していると、茜が心配そうな顔。
「なあ、麗ちゃん、半分も食べとらん」
「口に合わん?料理長が心配しとる」
麗は、湧き上がる苦しい思いを、懸命にこらえた。
「大丈夫、美味しい」とだけ言い、再び食べ始めた。