第170話麗はお世話係を拒めない。蘭からのメッセージ。

文字数 1,384文字

困惑するばかりの麗に、茜が具体的な話を始める。
「とりあえず、話を整理せなあかん」
「まず、ここのお屋敷からというのが基本」
「そうなると、麗ちゃんは葉子しか知らん」
「もちろん、麗ちゃんと話題が合いそうな人は他にもおる」
「しかし、まだしっかりと顔合わせをしとらん」

麗が頷くと茜はまた話を進める。
「あとは、奈々子さん、麗ちゃんを育ててくれた、でも引っ越しまで、もう少し時間がかかるから、連休明けには間に合わない」
「桃香ちゃんは・・・難しいかな、すぐに感情的になるし」
「美里ちゃんは冷静なタイプ、おっとりしているけれど安心できる」

麗は、ようやく反応した。
「いや、まず、桃香と美里は、困ります」
「いくらなんでも、幼なじみをお世話係になど、違和感が強い」
「それから・・・母と言っていいのか、奈々子さんと言うべきか・・・」
「少し、距離を置きたいのが本音」
「そうなると、お世話係の話を受けるにしても、ここのお屋敷の人からになります」
「しかし、あまりにも面識がない」
「連休に入って、ここのお屋敷に戻って、3日ぐらい」
「意識して顔を見たこともなく」

五月が麗の反応に、一つ一つ頷く。
「そやな、当たり前や」
「確かに桃香ちゃんと美里ちゃんは、お友達感覚で無理」
「奈々子さんは、麗ちゃんが抵抗あるやろ、よくわかる」
「そうなるとお屋敷からが無難」

すると茜が提案。
「なあ、麗ちゃん、そうなると若い人だけ」
「お屋敷のお世話係候補だけを集めて、お茶会をしようよ」
「そうしないと、話が進まん」

麗は、拒める状態ではないと思った。
「たかが食事程度のことで情けない」とは思うけれど、一度不覚にも倒れた事実がある。
それに「九条家の唯一の後継、次期当主」が非常に重い。
また、香料店の後継も、やがては面倒を見なければならないと思う。
そして、自分自身、健康な食生活には、情けないほどに自信がない。
麗は「当面の間、身体に肉がつくまでのお世話係」でいいかなと思った。
そして、結局、「わかりました、お茶会で」と返事をすることになったのである。

そんなリビングでの話を終えて、麗は自分の部屋に戻った。
かなりな疲れを感じたので、ベッドに横り、いろいろと考える。

「本当に面倒だ」
「お世話係?」
「あのアパートで、やっと気兼ねなく一人住まいが出来るようになったのに」
「宗雄に殴られることもなく、蹴られることもなく」
「奈々子は、泣くばかりで。、結局無反応で」
「蘭は、騒いで泣くだけ」
「やっと解放されたのに、お世話係?」
「また気苦労が始まる」

「桃香と美里は断った」
「それはいいけれど、お屋敷から来る?」
「となると、一緒に上京?」
「新幹線で話しかけられたら、言葉を返さないと・・・実に神経を使う」
「そもそも他人との接触やら関係を拒んできた俺だ」
「それが、ここ最近は、いろんな人が、まとわりついて来る」

「・・・その前にお茶会?」
「何を話せばいい?」
「しかし、そこでお世話係を選ぶ?」
「お相手は仕事の一環だろうけれど・・・俺もそれと割り切ればいいのか」

麗は、机の上に置いたスマホが光っているのを見た。
手に取ると、蘭からのメッセージだった。
「麗ちゃん、逢いたい」の「逢いたい」が数えきれないほど続いている。

麗は呆れた。
「おそらく泣いている、泣き虫蘭だ」
それでも思った。
「たまには泣き虫蘭の顔を見たい」
疲れ果てていた麗の顔が、少しだけ柔らかくなっている。
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