第25話麗の神保町散策、妹蘭からの困る連絡

文字数 1,812文字

麗は神保町に到着、早速「古代ローマ帝国歴史大全」と「マキャベリ氏のローマ史論」を探し始める。
昼食時で、行列ができている洋食屋などには見向きもしない。
「あれほど並ぶのだから、それでも美味しいのかな」とまでは思うけれど、食欲そのものがない。
幸運なことに、古本屋を四軒回ったところで、「マキャベリ氏のローマ史論」を三冊そろって500円で購入、麗はそれで少し落ち着く。
次の「古代ローマ帝国歴史大全」については、苦労する。
ほぼ廃刊かもしれないと考え、歴史書を扱う古本屋を七軒探すけれど、見つからない。
出版社に確認しようかと思うけれど、それなら、その業界に詳しい古本屋の親父にでも聞く方が手っ取り早い。
麗は、少し勇気を出して、七軒目の店主に聞いてみることにした。
「誠に申し訳ありません、古代ローマ帝国歴史大全という大型本なのですが」

店主の返事は、即答ではあるけれど、曖昧なもの。
「ああ、あるかもしれません、探しておきますので、いや、取り寄せられるかもしれませんので、そこの注文用紙にお名前とお電話番号を」
麗としては、要するに、ほぼ店にはないので、取り寄せるのだろうと推定する。
しかし、これ以上探しても見つけるのは至難、古本屋からの連絡を待つことにして、他の古代ローマ史関連の書籍を探すことにした。

「そうなると古代ローマの遺跡写真とか、古代ローマ関連の文庫本でもいいかな」
麗は、また別の古本屋を探し、あっさりと両方ともゲット」
古代ローマの遺跡写真とCGでまさに本物のように遺跡を再現し、その比較を載せた写真誌を一冊。
そして、かねてから読みたかったカエサルの「ガリア戦記」と「内乱記」。
特に「ガリア戦記」は数行読んだだけで、文の運びの見事さに、感激。
「簡潔、無駄がない、それでいて高い気品」
「端的にして深い含意、さすがに古代からの超ベストセラー」
「軍事の天才でありながら、文章を書かせたら、あのキケロが舌を巻いたと言うのも、よくわかる」
「しかも安い、全部で2,000円もしない」

麗は、本当に満足して、神保町詣での目的をほぼ達成、後はアパートのある久我山に戻る以外には用事が無い。
麗が時計を見ると、午後3時を過ぎたところ。
時間には余裕があるので、少し考える。
「駿河台の坂をのぼって神田明神とか、湯島聖堂、湯島天神を参拝する時間が、ないわけではない・・・ニコライ堂もあるけれど」
「しかし、坂をのぼるのも、少々面倒」

麗は結局、駿河台の坂はのぼらなかった。
「考えるのも面倒だ、早く帰ってコンビニでおにぎりでも買って、本を読みふけろう」

そう決めた麗は、神保町駅まで歩くと、真上にある岩波ホールの映画看板を発見。
見慣れない東欧の映画の大看板だった。
そして、麗は見とれてしまった。

「へえ・・・アメリカ映画とかの看板と全然違う」
「派手さはないけれど、文学映画風?」
「とても俺の田舎では見られない映画だ」
「まあ、俺の田舎で上映したところで、文化レベルが東京、しかも本の聖地、学問の聖地の神保町とは、幼稚園と大学ほど違う、幼稚園生が大学生の見る映画を見ても、わからないのがオチ」
「本当にこっちに来て良かった。実に文化の香りに包まれる」

麗は上映中の映画のチラシをゲット、上映時間を確認する。
「う・・・残念・・・3時を過ぎたか・・・次は6時」
「となると、一番早いのは、午前11時と・・・」
「土曜日でも来てみよう」

麗がそこまで予定を決めて、神保町から帰りの電車に乗るべく、階段をおりかけた時だった。
麗のスマホが鳴った。
スマホの画面を見ると、妹の蘭。
「おいおい、何?」
せっかくの文化あふれる散歩にいきなり、田舎の土臭い風が吹く。
蘭は端的。
「ねえ、桃香ちゃんに、馬鹿兄のアドレス教えた、教えないと桃香ちゃん、無通告で押しかけるって言うから」
麗は、ムッとした。
「あのさ、それ、迷惑、また部屋の探検をされても嫌だ、あいつ強引過ぎ、泣くし」
蘭は、麗の抗議は受け付けない。
「いいじゃん、馬鹿兄、かねがねベストカップルって思ってた」
「桃香ちゃんって、小さい頃からお姉さんみたいなもの、だから将来も全く違和感なし」
麗は、肩を落とした。
「あのさ、どうして蘭はそう飛躍する?俺の気持ちは?」
蘭は、それでケラケラ。
「しーらない!私も土日で泊まりに行くかなあ、桃香ちゃんと夜通し馬鹿兄の文句を言ってあげる!」
麗が途方にくれる中、蘭は嬉々として言いたいことだけを言い、勝手に通話を終えている。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み