第207話直美と九条家の連絡 麗は財団の葵に腕を組まれる

文字数 1,292文字

麗が大学に出かけた後、直美は京都の九条家と、テレビ会議にて連絡を取る。
報告を義務付けられているのは、食事の内容と食事の量。
それから、麗の予定と結果。

茜は、その報告を受けて、一安心。
「まずは順調な滑り出しで」
「何とか、一日一食生活から脱却すること」
「和食やと、いかにも京都を思い出させるから、最初は洋食の直美で良かった」

五月は。麗の直美への対応も気がかりだった。
「なあ、直美、麗様は気難しくない?」
「怒られたりはしとらん?」

直美は顔を赤らめる。
「いえ、ほんま、やさしゅうて」
「口数は少ないですが、言葉に情が深くて」
「ええ、お人やと」

茜は直美の変化を見過ごさない。
「まあ、知り合うほどに、惹かれるやろ」
「うちも姉やなかったら、迫っとる」

五月は、麗の今までの人生を思いやる。
「辛い目にずっと遭って、それを耐えきって、太い芯が出来とる」
「それと、人の感情を深く察知する、思いやりも深い」

直美から、相談をかけた。
「明日は、麗様が命を助けられた山本様へのお礼で、香苗様のお店に」
「そこまではいいのですが、麗様はお礼の品として、香料店のお香をとお考えのようで」

茜は、難色を示す。
「うーん・・・贈り物の使いまわしは、どうやろ」
「品そのものは、間違いではないけど」
五月も、いい顔をしない。
「18歳の男の子からのお礼の品で、香料・・・」
「麗様としては、それ以外に浮かばなかったのかな」
茜がアイディアを出した。
「京都の旅行券はどうやろ」
「何しろ、命の恩人や、結果として、この九条家も救ってもらった人や」
「相当のお礼をしても、し尽くせない」
「ご家族でいらしていただいて、出来れば、ここのお屋敷でもお礼したいぐらいや」

五月も、賛成した。
「九条財団の九段事務所に手配させます」
「麗様には、私から連絡します」

五月が話題を変えた。
「土曜日には、麗様の母代わりをしてもらった奈々子さんと、妹の蘭がアパートに入ります」
「ただ、麗様と直美は、京都で九条家の理事会があるので、ほぼ、すれ違いか、会っても極めて短い時間」

直美は、少し悩む。
「ご挨拶をしたほうがいいのでしょうか」
「麗様は、昔のことを、ほとんど語りません」
「いや、ほとんどでなく、全く語りません」

茜も、難しい顔。
「うーん・・・普通は、顔を合わせてご挨拶やけど」
「奈々子さんと蘭ちゃんが、挨拶に来るほうが筋かな」
「なるべく早く出て、顔を合わせんほうが、無難かも」
「うちから、蘭ちゃんにも言っておくわ」


直美と九条家は、そんな連絡やら相談をしているけれど、麗は知る由もない。
普通に大教室で、古代ローマの話を聞こうと席に座ると、九条財団の葵が追いかけて来て、隣に座った。
「麗様、あの・・・今日の午後はお時間はありますか?」

麗は、素直に答えた。
「はい、少しなら」
と言い、忘れていたことを思い出した。
「そう言えば、先日の英語の授業の後に、訪問する約束でしたね」

葵は、笑っている。
「はい、私も、ご案内するのに失敗しました」
「古典文化研究室での話が面白過ぎて、その後、不動産の麻友さんと話している間に麗様が逃げてしまって」
麗が、困った顔をすると、葵はしっかり麗の腕を組んでしまう。
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