第210話麗は慎重、東京事務所の問題に気づく。

文字数 1,350文字

しかし、それでも、麗は慎重に答える。

「今、聞いたばかりのお話になります」
「理事となれば、当然、責任も発生します」
「受ける受けないの前に、当然か当然でないかの前に、いろいろとお話を伺うことも大切なのではと考えます」
「九条財団全体の仕事、東京事務所の仕事、経営内容」
「それを確認してからのお話になります」
「もちろん、京都本家の大旦那、五月さん、茜さんとも確認をしてからの結論となります」

麗は、あまりに冷たい言い方と思ったけれど、「何でも二つ返事」で了解するのも、嫌悪感がある。
また、名目だけの理事であったとしても、会議にも出ることを求められるだろうし、その時間だけでも自由が失われる。
せっかく田舎での嫌な生活から逃れて、やっと自由な生活を始めたかと思えば、京都九条家の後継とか、都内財団事務所の担当理事とか、実に煩わしく思う。

麗は、少し戸惑いを見せる高橋所長に、言葉を追加した。
「中途半端な知識で引き受けたくはありません」
「急ぐ話でなければ、もう少しお時間をいただきたい」

葵は、麗の言葉を聞いて、驚く。
「確かに高橋所長の話は、性急すぎる」
「ほぼ、初対面の麗様に、九条家後継だからと言って、東京事務所の担当理事を願い出るのは、失礼にあたる」
「せめて、大旦那様からの指示が明確にないと、それはよくない」
「それに対して、麗様は全く浮かれていない」
「あくまでも冷静に状況を分析して答えている」
「身内の九条財団でさえ、安易に応諾しない」
「理事になっても、安易に決裁はしないタイプかも」
「それは、逆に安心感がある」
「かといって、やがては受けるかもしれないと、ほのめかす」
「中途半端な知識では引き受けないと言われたのは、私も安心」

高橋所長は、麗に頭を下げた。
「了解いたしました」
「確かに、麗様のお考えが適当と思われます」
「結論を先に申してしまいました、それは申し訳ありません」

麗は、表情を変えない。
「謝られる必要はありません」
「それよりも、ここの事務所の業務内容を、教えていただけないでしょうか」
「それがないと、何も判断が出来かねます」
「私も週末には、京都の九条家に戻ります」
「それまでに、一定の知識を欲しいと思うのです」

その麗の言葉で、少し暗かった高橋所長は、早速、説明資料を職員に持ってこさせ、説明を始める。

「大まかな説明となります」
「主に、書籍の出版と映画の後援、コンサートの後援」
「日本古典文化に関する講演会やイベントの開催」
「京料理の講習会の開催」
「京都、関西を中心にした旅行の斡旋も取り扱っています」

麗は、説明資料を一つ一つ確認しながら、高橋所長に質問。
「収支の状況はどうなのですか?」
「安定しているとか、厳しいとか」
「率直なお考えで結構です」

高橋所長の表情が、少し曇った。
「いえ、特に・・・問題があるとは考えておりません」
「厳しくないといえば、嘘になりますが」
「そもそもの資産がございますので」

麗は、高橋所長の表情を見て、考えた。
「何か、隠している」
「問題があるから、初対面の俺に理事を押し付けようとした」
「財務に欠陥が生じれば、俺の責任にする算段なのか?」
「そもそもの資産?というと、儲けがないから、資産を食っているのでは?」
「これは、京都本家にすぐに連絡するべきだ」

麗の表情は、実に厳しくなっている。
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