第202話麗と直美の会話 直美はうれしくてたまらない

文字数 1,213文字

意外にも、直美の話は麗にとっては興味あるものだった。

直美
「麗様の机の上に、ローマの本と、マキャベリの本がありましたので」
麗は、無難に返す。
「はい、大学でそんな勉強もしているので」

直美
「イタリア料理がお好きかなあと思いまして」
麗は、素直に答えた。
「はい、海の幸、山の幸で、日本人の口にも合います」
「フランス料理も嫌いではなく」

直美は、笑顔。
少し胸を張る。
「私は、料理学校で、洋食を中心に勉強したんです」
「九条のお屋敷でも、主にそれを」
「日本料理も確かに手伝いますが」
麗の表情が、少しだけ和らいだ。
「そうなると、ヨーロッパの各国料理も楽しめそうですね」

直美は、その顔を輝かせる。
「はい!是非、お任せください」
「と言いましても、やはりイタリアからスペイン、フランス、ベルギーあたりでしょうか」
「ロシア料理もたまには程度」
麗は、直美の気持を理解した。
「そうですねえ・・・ギリシャ・・・ポルトガルは何とか」
「ドイツ、イギリスには、そもそもの美味しい料理のイメージがありません」
「ウィーンもお菓子は美味しいけれど」

直美は、うれしくて仕方がない。
「もう、ワクワクしてきました」
「麗様、素晴らしいです、私の味覚にすごく近い」

麗は、ここで少し感じた。
やはり、京都の九条屋敷では、どうしても和食がメイン。
たまには洋食の直美の出番があるけれど、今までは一歩引いていたのではないかと。
麗は直美に出来るだけやさしく答えた。
「ここのアパートでは、自由に作っていただいてかまいません」
「九条屋敷では、難しいこともあるでしょうし」
「それは仕方がないこと、京料理、日本料理の伝統を守る立場でもあるので」

直美は、その言葉に感じたらしい。
ホロッと涙を流し始めている。
「もう、うれしくてなりません」
「モヤモヤをスッと無くしていただきました」

麗は、直美の手そっと握った。
「九条屋敷に戻る前に、一度、都内を散歩しましょう」
「京都では食べられないような食事はどうですか」

直美の顔が、またパッと輝く。
「え・・・うれしい・・・」
「ほんまですか?あ・・・すみません、本当ですか?」

麗は、顔には出せないけれど、直美の焦る笑顔が眩しい。
「あまり都内を歩いていないけれど・・・」
「よく神保町を歩くと、池波正太郎さんが通った中華料理店がまだ同じメニューを出しているとか」
「井伏鱒二が通った江戸前の天ぷらとか」
「学生街なので、洋食店もありますし」
「神田なので、江戸前の蕎麦屋もあります」

直美は、麗の言葉の一つ一つに、身体が震える。
「ほんま、うちのことを、考えてくれとる」
「顔も身体もきれいで・・・心根はほんまやさしい」
「ええ人や、無駄なことも、嘘も言わん人や」
「下手な愛想笑いばかりで中身がない京都男は嫌いや、麗様が好きや」
「はぁ・・・全部食べたい・・・」

直美は麗の手を握り返した。
「はい、麗様となら、お任せです」
そして、その身体の奥は、すでにどうしようもないことに、なってしまっている。
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