第383話麗の気持ちは緩まず、次々に新しい課題

文字数 1,292文字

麗と鈴村八重子の18年ぶりの再会が果たされ、九条屋敷全体が潤んだ状態になったとしても、麗はその気を緩めることはない。
「祖母と孫の再会は、それは周囲よりも、まずは当人同士で実感すればいいことに属する」
「感動するとか感激するとかは、それを見知る人の自由で、当人同士の思いが、まず第一になる」
「心のつかえが取れたけれど、俺には、その他にも、様々にやるべきことがある」

麗は自分の部屋に戻り、今夜の予定、「銀行の直美との面会」を考える。
「おそらく、葵とか不動産の麻友、学園の詩織に先を越されている焦りから、無理やり面会を申し込んで来た」
「先を越されていなければ、いかに九条後継とはいえ、こんな地味な俺と話をしようとは思わないだろう」
「一度は、程度の悪い貸出先からの資金引き上げを話題にしようとは思ったけれど、それはやめる」
「個人的な面会の話では、あまりにも固すぎる」
「そうかといって、俺が銀行の直美に話があるわけではない」

そう考えた麗は、自分からは話題を持ちかけないと決めた。
「まずは相手の話を話半分に聞く」
「メモは取らない」
「下手にメモを取って、相手に期待されても困る」
「できるだけ、相手の話をほめて、期待を持たせる」
「その上で、できるとか、できないは、明言しない、だから責任もない」
「実に意地悪な、いけずな、京都人独特のやり口ではあるけれど」
「特に銀行、金がらみの話だ、慎重を期すに越したことはない」

そんなことを考え、麗がいつもの能面に戻っていると、茜が入って来た。

「麗ちゃん、お疲れ様、ほんま感動したわ」
「それと麗ちゃんの、笑顔うれしかった」
麗は、能面を変えない。
「いや、不用意にも顔に出してしまって」
茜は、麗の肩を揉む。
「何を言うとるんや、皆、麗ちゃんの笑顔が見たいんや」
「笑顔のほうがいい」

麗が、すぐに返事ができないでいると茜。
「なあ、麗ちゃん、大旦那から話があるとおもうけど」
麗は、「うん」と話を聞く。

「恵理と結の住んどった屋敷を月曜から取り壊す」
麗は、ここでも「うん」と頷くだけ。
特にコメントはしない。


「跡地をどうするか、考えて欲しいと言われるよ」
ここで麗はようやく反応。
「それは・・・すぐには、わからないよ」
「今聞いたばかりで」

茜は少し笑う。
「それはそうやな」
「その反応、当たり前や」

今度は麗が茜に聞いた。
「敷地の面積とか、それもあるけれど」
「九条屋敷として、無くて困っている施設とか設備」
「あるいは、これが、あったらなあと思うようなものはないの?」

茜は考え込むので、麗は続けた。
「やはり、必要があるから、何かする」
「それは、実際暮らしている人のほうが、わかりやすい」
「でも、九条屋敷なので、既に満ち足りているのかも」
「そうなると・・・別の発想かな」

茜が麗の正面に回った。
「なあ、麗ちゃん、知恵を出して」
「今すぐとは言わん」
「麗ちゃんの考えることとか、言うことなら、皆喜んでやる」

そこまで言われて、麗はようやく考え始める。
「そうだなあ、今後の九条家に役立つものとは」
「皆が喜ぶ施設を・・・となると、あれかな」
麗は、思い当たるものが見つかったらしい。
少しその顔を緩めている。
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