第410話山本由紀子は、麗の女神で憧れ

文字数 1,240文字

スペイン風の後は、一転中華風。
搾菜のすっきり系スープ、小ぶりの肉まん、アワビのオイスターソースかけ。

山本由紀子は麗の小皿に器用に取り分ける。
「どう?麗君、もっと食べて」
麗は、せかされるように、口に入れる。
「すごく美味しい」
「元気がでます、どれを食べても」

山本由紀子の顔が赤い。
「麗君と、こうやってお食事って、どうしてかな、幸せ」
「安心感かな、ホッとする」
麗も同じ。
「そうですね、女神様とお食事しているみたいで、安心します」

山本由紀子は麗をからかいたくなった。
「その女神様は、お姉さま?お母様?それとも?」

珍しく麗の顔も赤くなる。
「山本さんは・・・えーっと」と戸惑ったりする。

山本由紀子は、その麗がまどろっこしい。
「学内なら山本さんでもいいけどね、二人きりでは由紀子さんにして」
「いい?これはデートなの」

麗は、慌てた。
「あ・・・はい・・・由紀子さんは・・・」
懸命に答えを探した。
「・・・憧れです」
言い終えて気持ちを静めるように、お茶を口に含む。

山本由紀子は、さらに麗に迫る。
「それを具体的に、答えが不十分」
とにかく能面だった麗を、もう少し困らせたい。

麗も必死。
「由紀子さんは・・・大学に入って、最初に笑顔を見せてくれて」
山本由紀子
「ふむふむ、それで?」

「でも、女性と話すのが苦手で」
山本由紀子
「そんな感じだった、途中から目も合わせてくれない」
麗は素直に謝る。
「ごめんなさい、でも、どうにもできなくて」

「井の頭線で倒れそうになった時に助けてくれて、本当にいい人だなあと」
山本由紀子
「うん、あの時は私も焦った、でも、その話はもうしないで」
「しっかりお礼をしてもらってあるから」
「過分なほどにね、それも」

麗は山本由紀子を見つめた。
「とにかく、難しいことは言えないけれど」
「何があっても、由紀子さんは女神様で、憧れなんです」
「他の気持ちも言葉も浮かばない」

山本由紀子の顔が、また赤みを増す。
「もう・・・照れるよ・・・それ」
「こんなおばさん・・・本を持っているだけの地味な女に」
麗は、首を横に振る。
「そんなことありません」
「おばさんなんて思えないし、由紀子さんは僕にとって地味とか派手とか、そんなことを越えています」

麗が、熱弁を振るっていると、焼き鳥の盛り合わせがテーブルに。
山本由紀子
「もっと聞きたいけれど、焼き鳥食べよう」

麗は素直、「はい」と焼き鳥を食べ始める。
山本由紀子は、余裕の笑顔に戻った。
「焼き鳥美味しい、麗君の赤い顔も美味しい」
麗は答えるけれど、やはり恥ずかしいのか、余計なことを言えない。
「美味しいです、シンプルに、美味しい」

焼き鳥の後は、下町らしい深川丼で締め。
山本由紀子
「アサリの味噌汁ぶっかけご飯だけど、口に合う?」

「はい、池波正太郎先生の本にもあって、いつかは食べたいなあと」
「本当に美味しくて、満腹でも食べられそう」

山本由紀子は、また童女の笑みに戻った。
「麗君、またデートしてくれる?」
麗には、断る理由がない。
「はい!」と元気よく答え、深川めしを頬張っている。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み