第494話奈々子、瞳、香苗

文字数 1,180文字

通話中のスマホもそのまま、奈々子が泣き伏していると、アパートのチャイムが鳴った。
そしてインタフォンから瞳の声。
「奈々子、開けて、面と向かって話しよ」
奈々子は、混乱。
「なんや、アパートの前におったんか・・・最初から何で入って来んの?」
と思うけれど、瞳は数少ない心を許せる相手、立ちあがって玄関を開ける。

そして驚いた。

入って来たのは、瞳だけではない、香苗も一緒だった。
奈々子は、また動揺する。
「おどろくやろ?どうなっとる?わけがわからん」

しかし、瞳も香苗も、どんどん靴を脱ぎ、アパートの中に。
香苗は、湯を沸かし、お茶まで入れている。

奈々子が呆気に取られていると、瞳は奈々子の腕を取り、座らせる。
香苗は、お茶を配り、少し笑う。
「瞳と待ち合わせしたんや、驚かそうと思うてな」

「懐かしの香料店三人娘や、何の気がねもいらん」
奈々子は、またウルウルとなる。
「驚かせ過ぎや、ほんま・・・」

香苗が奈々子の手を握る。
「なあ、奈々子、面倒な話は抜きや」
「とがめることもない、なんとなくわかっとった」
瞳も奈々子の手を握る。
「奈々子が悪いんやない、恵理と宗雄、が酷過ぎた」
「それから言いづらいけれど・・・後はわかるやろ?」
香苗の目が潤む。
「奈々子かて・・・ほんまは、あの人が好きで」
瞳も泣き出した。
「うらやましいほどのカップルで、相思相愛で」
「それをチャラにされて」
香苗
「あの人だって、独身や、可哀相に」

「奈々子を思うてのことや、きっと」
香苗
「あの人もわかっとるかもしれんよ、五月さんが言うとった」

奈々子は、身体が震えている。
「そんなこと・・・どうやって・・・言える?」
「麗様にも、蘭にも・・・言えん」
「ずっと騙して」

瞳の口調が厳しくなった。
「それはそれや・・・確かに簡単には、子供には言えん」
「ただな、蘭ちゃんの気持ちもあるやろ?」
香苗も続く。
「このままやと、蘭ちゃんは、犯罪者の娘や」
「奈々子が言わんと、ますます蘭ちゃんは苦しむよ」
「明るい顔しとるけど、内心は辛くて仕方ない」

瞳は奈々子の肩を強く抱く。
「宗雄と蘭ちゃんは・・・関係ないやろ?」
「血はつながっとらんやろ?」
香苗の顔も厳しい。
「奈々子、蘭ちゃんを犯罪者の娘にするんか?そのままにするんか?」

奈々子は、顔がクシャクシャに変わる。
「いやや!そんなん・・・うちが腹を痛めた一人だけの子や、そんなん嫌や」
「もう嫌や、とがめんと言って、とがめとるやないか!」
「どうしたらいいのか、わからんから、苦しんどるんや!」

瞳は奈々子を抱く力を少し緩めた。
そしてやさしい声。
「蘭ちゃんは・・・あの人との子やろ?」
「ええやん、そのほうが」
「少なくとも犯罪者の実の娘にはならん」

香苗もやわらかな顔。
「再婚すれば問題ない」
「あの人だって、嫌とは言えん、認知せなあかんし」
「うちらが応援する、任せとき」

奈々子は。放心状態、肩の力も抜けてしまった。
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