第370話茜のためらい 香苗と美幸の相談

文字数 1,261文字

さて、一限目を終えた葵は、麗とお昼を食べたかったので、古典文化研究室に出向いたけれど、麗の姿も見えず、高橋麻央もいない。
「どこに行かれたんやろ」と思って歩いていると、遥か遠くに麗の姿。
その麗の左右に、高橋麻央と中西彰子が歩いている。

葵は、追いかけようかと思ったけれど、足が進まない。
「源氏物語、万葉集に加えて古今和歌集まで入ったら、とても話についていけんし」
「いづらいわぁ・・・きっと」

それでも、そんな自分が実に情けない。
「麗様を追いかけて、東京まで出てきて」
「京の意地悪連中には、京を捨てたんか?とか」
「えらい元気な娘さんや、しっかりしとるなんて、陰口ばかり」
「でも実態は、うちが麗様を追うばかり」
「麗様がうちを求めに来ない」

ただ、麗を諦めるとか、それは無理。
そんなことを思うと、京の意地悪中の顔も言葉も、すぐに浮かんでくる。
「何や、自分勝手に追いかけておいて、話が何も進まん?」
「葵さん、魅力ないと違う?」
「どんくさいわぁ・・・はよ、無駄なことはやめとき」

しかし、葵が何を思っても、追いかける足は進まず、麗は高橋麻央と中西彰子に囲まれるように、とうとう姿を消してしまった。
「今からスマホで連絡するのは・・・あかんな」
「きっと迷惑や・・・」
「仕方ない、午後の講義で、隣の席をゲットや」
「絶対に挽回せんと」

葵は、結局スマホを握りしめたまま、昼休みが終わり麗との再会を待つ以外には、何もできなかった。


さて、花園美幸は、葵を通して聞いた「麗からの医療、健康系のブログ話」は、実に退屈しのぎにはなるし、興味深いものとして、喜んでいる。
「まあ、奈々子さん次第やけど、今のところ、何も問題はない」
「時々声をかけるだけ、うつ状態になっていないかを確認するだけで、暇やった」
「まあ、それもこれも、麗ちゃんが奈々子さんを回復させたからやけど」
「医療、健康系のブログか」
「今でも麗ちゃんと話したいけれど」
「来週か・・・その前に何とか、麗ちゃんの顔を見たい」
「麗ちゃんの健康状態の点検も必要や」
「ああ、もうじれったいなあ」
「でも、この話で生き返った気がするわ」

美幸が、少し浮き浮きとなっていると、吉祥寺の料亭の香苗から連絡。
香苗
「一度、久我山のアパートの面々をご招待したくて」
美幸は、「はぁ・・・」と受ける。
香苗の真意をもう少し知りたいと思う。
香苗の声は明るい。
「奈々子さんを、この料亭で少しお手伝いをと」
「そのお力添えを」
美幸は聞き返す。
「お手伝いと申しますと?」
香苗
「最近、毎晩話をしておりまして」
「料亭で使うお香だけではなくて、空き時間に着付けの指導をと」
「もちろん、生徒を取ります」
美幸は納得した。
「それで、奈々子さんの顔が、最近明るいと、ようわかりました」
香苗は、話を続けた。
「まあ、麗様は・・・おらんでもいいかもと」
「おそらく誘っても、断るかと」
美幸は、少し笑う。
「そうですね、来ると、何かと文句を言うかと」
「うるさそうです」
「今は、奈々子さんの自信回復が第一」
「ほんま、妙案と思います」

香苗と美幸の相談は、なごやかに進んでいる。
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