第363話蘭は日向先生と高橋麻央にお礼 古典文化研究室にて

文字数 1,456文字

午後の四時、麗と葵は、大学最寄りの駅改札口で、蘭を迎えた。
蘭は、本当に神妙な顔。
「今日はよろしくお願いいたします」
頭の下げ方も、緊張している。

麗は、早速指摘。
「ここで緊張してどうする?」
「さっさと歩け」

ビクッとなった蘭を葵がなぐさめる。
「それは初めての大学キャンパスで、しかも有名な教授にお逢いするのだから緊張は当然」

蘭は、小さく頷くけれど、麗の厳しめの言葉の意味はわかっている。
「シャンとしろってことだよね、ありがと、麗ちゃん」と内心、思う。

日向教授と高橋講師との面会は、午後4時半のため、まだ余裕がある。
蘭は、緊張は続いているけれど、見慣れぬ道であり、大学キャンパスに入っても、キョロキョロして歩く。
葵は、そんな蘭が可愛い。
「どう?面白い?」
蘭は目を輝かせる。
「はい、すごく自由な雰囲気で、広いし高校とは全く違う」
葵は、その蘭と同じ思い。
「ほんまや、広々として、人目をさほど気にせず」
その言葉の裏には、「いつ、誰に見られて酷いことを言われるかわからない京社会」から脱出した安堵感が透けて見える。

麗は、いつもの通り能面。
葵に任せているのか、蘭とは口を利かない。

蘭は葵に質問。
「麗様、いつも、こんな感じですか?」
蘭としても、麗が関係筋の葵にまで、無口なのかと、不安に思う。

葵は、笑って首を横に振る。
「いや、口数は少ない」
「理解しがたいことを言う時があるけど・・・理解すると、それはもう・・・」
「心底、やさしい人と思います、よう考えてくれて」

一行は古典文化研究室に入った。
既に、高橋麻央は研究室の中にいて、三人を出迎える。
「あら、ようこそ、あなたが蘭ちゃん?」
「まあ、可愛らしい、ハツラツって感じ」

麗が目で挨拶を促すと蘭がキチンとご挨拶。
「はじめまして、蘭です」
「このたびは、転入で大変お世話になりました」

高橋麻央は、蘭と握手。
「日向先生は、もうそろそろ、お見えになります」

全員がソファに座り、少し雑談をしていると、日向先生が入って来た。
麗と葵はゆっくり立ち上がるけれど、蘭は再び緊張したのか、弾けるように立ちあがる。
「はじめまして、蘭です」
「このたびは、転入につきまして、本当にお世話になりました」
蘭には珍しい震える声になったけれど、日向先生はいつもの穏やかな顔。
「ああ、無事に転入が終わり、慣れましたか?」
「麗君もいるし、ご親戚筋のお方も、多く都内に来られているようで、安心して勉強をしてくださいね」
「そして、大学進学の際は、是非、この大学に」
蘭は、「はい!」と元気に答えるけれど、顔が真っ赤。
やはり、日本でも有数の源氏学者直接からの御言葉、九条の大旦那とも関係が深いとならば、やはり緊張はしてしまう。

再び全員がソファにつき、話が始まる。
日向
「お礼などは、なさらぬように、されると困ります」
高橋麻央
「もう麗君と、京都の麗君の実家と香料のお店から、別の形で、過分に」
麗は二人を止めた。
「それは、あまり蘭の前では」
日向と高橋麻央も、麗の気持ちを理解した。
そして、別の話題に移る。

日向
「ところで、麗君、やはりね、古典文化研究室に入ってもらいたい」
高橋麻央
「忙しいとは思うけれど、何とかならないかな」

麗は、いろいろな関係を思うと、断るのが難しい。
「わかりました、空き時間だけの活動になりますが」

日向の目がしっかりと麗を見る。
「時間がかかってもかまいません、麗君に、どうしてもやってもらいたいことがあるのです」
「もちろん、私たちも、協力します」

麗も日向の顔を見た。
この時点で、何を期待されているのか、全く予想がつかない。
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