第199話麗の鎌倉香料店取材 準備段階で様々な反応

文字数 1,437文字

さて、麗は、なかなか忙しい。
山本由紀子との会食の話をまとめた少し後に、高橋麻央の妹、佐保がスマホに電話をかけてきた。

佐保は不安気な声。
「麗君、香料店の取材の話だけど、大丈夫?」
麗も約束を引き受けてある以上、断れない。
「はい、京都の香料店とも、深いお付き合いのある、鎌倉小町通りの香料店で」
「この間立ち寄った香料店になります」
佐保の声が弾んだ。
「ありがとうーー!麗君!」
「ほんと、連休中、心配で」
「うちの会社の上司も嫌みだらけで・・・もう辛くて」
「でも、これで安心かなあ」

麗は、取材の予定日が気にかかる。
山本由紀子との会食日は避けたい、やはり鎌倉と吉祥寺では一定の距離があるし、移動時間もある。
「あの、佐保さん、取材の日は・・・」

佐保は、おだやかな声になっている。
「うーん・・・麗君の予定でいいよ、授業もあるでしょ?」
これには麗も安心した。
「そうなると、木曜日の午後でいかがでしょうか」
「授業もありませんし」
佐保の声が、また弾んだ。
「ありがとう!段取りはしておくよ!」
「それから大学まで迎えに行きます」

麗と佐保の取材連絡は、一旦、それで終わった。

麗は、そのまま四限目の教室に向かうけれど、佐保は取材の段取りをしなければならない。
少し恐る恐る気味に、鎌倉小町通りの香料店に取材の申し込みをする。
その電話口に出たのは、瞳だった。
そして、実にあっさりと取材を引き受けた。
「はい、京都の香料店様から、既に内々に連絡を受けてあります」
「木曜日の午後ですか、お待ちしております」
「何でもお聞きください」
「私どもも、楽しみにしております」

佐保は、本当に安心した。
おそらく、これほどのスムーズさは、麗が動いてくれたと思うし、二重の安心感がある。
「あの・・・お知り合いの大学生も一緒です」
と、一言を付け加えると、瞳の声がうれしそうに変わる。
「はい、よく存じ上げております」
「その大学生・・・いや、大学生といっても、香料については素晴らしいものがありまして」
「私どもも、かなわないほどの・・・」

佐保と鎌倉の香料店の瞳との打ち合わせは、そんな様子で、すこぶる円満に終わった。

さて、その電話を聴き取っていた美里は、心がときめいている。
「あらーーー・・・こっちから久我山に押し掛けようと思っていたら、麗ちゃんが来てくれるなんて・・・」

その笑顔にあふれる美里を、瞳がたしなめる。
「もう、麗ちゃんなんて言えないの、麗様なの」
「それに、取材で来るの、節度は必要」
美里は、それでも、うれしさを隠せない。
「午後からお休みにしたいくらい」
「麗ちゃん・・・いや、麗様・・・どんな取材するのかな」
「緊張するかなあ」

瞳は美里に呆れ顔。
「京都の香料店の晃さんが、子供の頃から仕込んで、後継者に欲しがったくらいなの」
「実力的には、晃さんと変わらない」
「香道のお師匠さんも、その世界に引きずり込みたくて、何度も晃さんに頼んだとか」
「今は・・・九条家の正式後継者、まともには口も聞けないの」
「だから、美里も中途半端な答えをすると、恥ずかしい」

美里は、そこまで言われて、ようやく少しだけ落ち着く。
ただ、まだ夢見心地。
「麗様の文章って、どうなるのかなあ」
「きれいな文を書いたよね、字も上手だった」

瞳は、結局落ち着かない娘の美里を見て思った。
「やはり、麗ちゃんは、魔性を持つのか」
「付き合えば付き合うほど、惹きつけられる」

ただ、瞳も麗の取材を受けるとなると、やはり不安。
浮かれる美里の腕を引き、倉庫から店までの掃除や整理を始めている。
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