第490話花園美幸から奈々子について連絡 古典文化研究室で麗は気持ちを切り替える

文字数 1,328文字

麗は、いつもの通り上京、高輪の家に、お世話係の美幸と入り、家の設備など、簡単な説明をする。
美幸は、本当に興味深そうな顔。
「ほんま、京の実家とは大違いで、何でも新しゅうて・・・現代的・・・いや・・・未来の生活みたいで」
麗は苦笑。
「IT生活になります、いろんな意見はあるけれど」
「道具は上手に使えばいいだけのこと」
麗は、大学の授業もあるので、少しして通学の途につく。

大学最寄りの駅に着くと、改札口で葵がお出迎え。
そのまま一緒に大学まで歩く。

「今日は古典文化研究室には行かれます?」

「顔くらいは出すかな、その程度」


そんな平和な話をしながら、大学構内に入ると、花園美幸から麗のスマホに連絡。
「奈々子さんの顔が青くて、よく眠れていないらしいので、様子を見ています」
「今はクリニックのベッドで眠らせています、それほど酷い状態ではなく」
「熱もありません、精神的なものかと」
麗は感謝などを言う。
「美幸さんがついていてくれて、本当に助かります」
「新しい仕事について、疲れたのかな、申し訳ない」
花園美幸
「いえ、麗様が謝られる必要はありません、今後はお任せください」
「回復は早いと思うのですが、一応、蘭ちゃんにも言っておきます」

麗が、花園美幸との連絡を終えると、葵が心配そうな顔。
「奈々子さんですか?」
麗は頷くしかない。
ただ、余計なことは言わない。

「所長の高橋にも言うておきます、無理はさせんようにと」
麗は首を横に振る。
「理由はわかりません、それほどの仕事をしているとも思えないので」
「ただ、様子は見ないと、蘭のこともある」

その後は花園美幸から連絡がなかったので、少々気になっていたものの、授業中の麗は平穏に過ごす。
「とにかく眠れない原因がわからない以上は、どうにもならない」
「奈々子は、今まで、そんな眠れないような、愚痴を言ったこともなかったけれど」
それでも、大旦那の「麗がまず面倒を見るべきは、鈴村さんや」の言葉が重い。
だから、余計には考えないように、と自分の心を整理する。

麗と葵の昼は学食にしたので、古典文化研究室には、予定の受講を終えた午後2時半過ぎに入った。

日向先生が笑顔で麗を出迎える。
「お待ちしておりました、と言うより、先ほどまで鈴村さんと電話をしていました」
「この間、麗君からお聞きした、古今和歌集と源氏のコラボ企画の件です」

麗は、ようやく気持ちが、楽になる。
祖母鈴村八重子の存在も、本当にありがたいと思う。
少なくとも、祖母のことを考えている時間は、奈々子への不安から、解き放ってくれるのだから。

また、日向先生も自分を見ているので、麗は少し考えた。
「こりずまに またもなき名は 立ちぬべし 人にくからぬ 世にしすまへば、でしょうか、そんな歌を思い出しました」
「古今の恋歌三で、確か・・・よみびとしらず」

日向先生は、満足そうな顔。
「光源氏と、朧月夜の問題の再会ですね」
「こりずまに・・・あれほどの酷い須磨蟄居の後、その原因となった光源氏と朧月夜の再会」
「まさに、性懲りもなく、一度結ばれた男女は善悪も過去も越えて、また結ばれてしまう」
「そんな男女の業の深さ、紫式部の筆が冴えていて」

少し離れて聞いていた高橋麻央も満足、ただ、葵は全く話の展開について行けない。
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