第156話麗は、悪徳医師に対峙する。

文字数 1,233文字

麗の父兼弘と母由美を看取った医師は、実に簡単に白状した。
すでに恵理も宗雄も逮捕、日本にいないので、大旦那を前にすれば、白状するしかないと思ったのかもしれない。

「二人に、致死量に至るモルヒネを投与したこと」
「その指示は恵理だったこと」
「運転手は宗雄で付き添っていたこと」
「その数日前に、執事の鷹司が現金を届けに来たこと」
「鷹司は、理由は言わなかった」
「ただ、恵理様の御意向とだけ」
「医師としては、恵理には犯罪と知っていても逆らえず」

医師はそこまで白状して、土下座をする。

「・・・申し訳・・・できません・・・」
「けど・・・妻子を・・・」
「断ったら・・・何度も、狙われ・・・」
「妻は私の留守中に、極道に、ひどい手籠めにされかけ・・・」
「妻は、あれ以来、神経を病み、施設に」
「警察に言ったら・・・」
「息子は、トラックに跳ね飛ばされ、複雑骨折」
「二歳の娘は、ドーベルマンに足を食いつかれ」
「子供二人とも、その後、道をまともに歩けず・・・」
「もう、恐ろしゅうて・・・」

大旦那は、腕を組み、じっと土下座の謝罪を聴く。
茜は、その謝罪を最初から動画撮影している。
尚、私服の刑事は、対面の場には出ていない。
隣の待合室から、様子をうかがっている。

麗が、口を開いた。
「いずれにせよ、貴方は殺人者」
「いくら貰ったのかは知りません」
「どんな理由があるとしても、人を殺して、報酬を得る殺人業者なのです」

土下座を続ける医師の肩がビクッと動く。
そして、蒼ざめた顔が真っ赤になる。
何しろ、髪の毛が薄いので、赤みがすぐにわかる。

麗の表情が実に冷たく、厳しいものになる。
「そのうえ、死亡診断書を偽造」
「金のためには、嘘をつく人」

麗の声が、少し大きくなった。
「奥様のことにしても、子供さんのことにしても」
「どこまで本当のことですか?」
「ここにおられる刑事さんに確かめてもらっても?」

土下座を続ける医師は、身体を激しく震わせ出した。

麗は、再び大きな声。
「ここは、個人病院」
「隣が自宅ですか?」
「ベンツが3台、BMWが1台」
「あれは、ご使用人の車ですか?」
「それとも、施設に入っている奥様?」
「歩けないはずの御子息の車?」

麗は、ここで一呼吸。
「二階の窓から大きな笑い声も聞こえましたけれど」

黙っていた大旦那が口を開いた。
「程度の悪い、取ってつけたような嘘を言うもんやない」
「麗が見抜いた通り、極道に狙われたなんて全部嘘や」
「誤魔化そうなんて、出来るわけがないやろ」
「もともと、お前ら、グルや、恵理も宗雄もお前もな」
「とうに調べはついとる、お前も終わりや」

待合室から刑事が入って来た。
そして医師は、そのまま逮捕、連行されていった。

茜が麗に声をかけた。
「ようやった、麗ちゃん」
麗は、憂鬱な顔。
「あまりにも臭い、定番通りの嘘、馬鹿にするにも程がある」
大旦那が麗に尋ねた。
「鷹司はどうする?」
麗は、少し考えた。
「当分、泳がせましょう、実は、ただの臆病者、でも、始末はつけたい」
茜は、麗の言葉の響きの冷たさに、驚いている。
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