第361話あちこちに神経を使う麗

文字数 1,151文字

翌朝、麗が大学に登校後、涼香はテレビ会議にて、五月と茜に報告する。
「麗様は、最初はショックのようでしたが、今朝はいつものお顔に、食事も普通に」
五月は、少しだけ、胸をなでおろす。
「そもそも表情に出さんけど、食べられただけでも」
茜は、まだ不安。
「時々、自分を追い込む時あるから、それが心配や」
涼香は、麗の苦しむ姿を、また思い出す。
「とにかく頭を抱えておられて」
五月
「鈴村さんは、もう前から逢いとうて仕方ないんや」
「でも、麗ちゃんは、土日はフル活動や」
「京にも完全には慣れとらん、だから急ぐと混乱すると思うてな」

「我慢強い子やから、ほとんど文句は言わんけど」
「もっと顔に出せばと思うけど、そもそも顔に出さんし」
「九条の後継を意識して、ますます顔に出さん」
涼香
「やはり、ストレスも強くたまると思います」
「できるだけ、お役に立ちたいと」

涼香と五月、茜がそんな話をする中、麗は葵と大学のキャンパスにいる。
スマホを見ると、蘭からのメッセージ。
「今日はよろしくお願いします」
麗は、少しだけ顔をやわらげる。
「礼儀正しく、お礼は不要」

そんな連絡が終わると葵。
「うちも同席させていただきます」
「それから、お話が終わったら一緒に帰ります」

麗は、素直にありがたいと思う。
「葵さん、助かります」
葵は、笑顔。
「いや、もう蘭ちゃんとのお話が面白うて」
「ポンポン話が続いて、飽きないんです」

麗は、蘭の話題は予想がつく。
「葵さん、食べ物とか?お菓子とか?」
葵は頷く。
「はい、ほんまです」
「昨日は鎌倉丼のお話で」

麗は、これは恥ずかしいと思う。
鎌倉丼は、エビフライの玉子とじ丼、かつ丼の豚カツをエビフライにしただけの、全くの庶民料理。
とても、大金持ちでお嬢様育ちの葵には、見せることでさえ、ためらわれる。

麗は、話の方向をずらす。
「もうすぐ紫陽花の時期」
「何とか、鎌倉の紫陽花を見たいところだけど」

葵は、ますます笑顔。
「そうですねえ、一度何とか、時間を作って」
「紫陽花を愛でに出かけましょう」
「円覚寺から明月院、建長寺、小町を散歩」
「その後は、鎌倉ならではの海鮮料理」

麗は、「結局海鮮料理を食べたいのか」と思うけれど、うかつには話に乗らない。
「土日は、ご存知の通り、京都」
「石仏の話もありますし」

それでも、笑顔の葵に、あまり冷たい反応をするのも、よくないと思った。
「わかりました、一度、何とか日を作りましょう」
「どうでもいような、出席を取らない大教室の授業の午前中とか」

葵は、その言葉の時点で、麗にぴったりと寄り添う。
「実におやさしい」
「もう、離れられません」

麗は、また困る。
「あちこち、本当に神経使う」
「何とかして、一人になれる場所を見つけないと」

ただ、あまりにも神経を使う対象が多過ぎて、昨日の「祖母ショック」は、いつの間にか薄れている。
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