第276話麗はお屋敷の全てから記念撮影を求められる。
文字数 1,312文字
午前7時の朝食を終え、佳子は麗の和服への着付けを完璧にこなす。
「麗様、ほんまお似合いです、うちは、うれしゅうてたまりません」
麗は、いつものシンプルな答え。
「ありがとう、助かります」
佳子は、着付けが終わると、今日の予定を言う。
「下鴨神社にて社頭の儀に参列となります」
「社頭の儀は午前11時半から、午前9時にはお屋敷を参列者全員で出発します」
「麗様は大旦那様と隣り合わせの席、最前列になります」
「五月様、茜様、関係筋のお嬢様、お世話係たちも参列します、ただし大旦那様と麗様よりは後ろのほうの席」
麗は「連れられて行くだけ」と思っているので、頷くだけ。
佳子の説明が続く。
「大旦那様からお話がありました寺社関係の方々」
「府知事と市長さんもお見えになります」
麗は、ここでも、ほとんど反応がない。
「大旦那に紹介されるかもしれないけれど、ただ頭を下げるだけでいい」
「九条家の後継ではあるけれど、東京の大学生でもある」
麗が着付けや、説明を受け、佳子と一緒に部屋を出ると、やはり葵祭の当日なのか、すれ違う使用人たちの顔が、いつもより輝いている。
麗は、その様子を見て思った。
「まあ、この感覚は京都ならではだろう」
「枕草子にしろ、源氏物語にしろ、葵祭は京の祭りの中では別格」
「心が浮き立つのは、仕方がない」
「東京でいえば、三社祭とか神田祭」
「歴史から言えば、葵祭とはこれも別格かな」
しかし、その神田祭を思い出した時点で、神田神保町を思い出してしまった。
そして神保町を思い出すと、図書館司書の山本由紀子のやわらかな笑顔が浮かんでくる。
「山本由紀子さんは、今頃、何をしているのかな」
「葵祭は仕方ない、九条家だから」
「でも、俺は山本由紀子さんと神田祭を見たい」
「彼氏にはなれない、年下過ぎて」
「でも、危ないところを救ってもらったし」
「一番、素直になれる女性と思う」
しかし、その麗の珍しくセンチメンタルな思いは、あっけなく中断となった。
お世話係たちの集団に、廊下で囲まれてしまったのだから。
「麗様、お人形さんみたい、麗しい」
「はぁ・・・お写真をご一緒に」
「そや、庭でみんなで」
「うちは、腕組んでもらいたい」
「うーん・・・それも順番でどう?」
「当たり前や、みんなの麗様やもの」
その大騒ぎを聞きつけたのか、五月と茜も寄って来た。
五月はうれしくて仕方がないといった顔。
「はいはい、大旦那にも申しました」
「お天気もいいので、お庭に行って全員で記念撮影しましょう」
茜は麗の腕を引く。
「麗ちゃん、さっさと歩く」
「忙しいよ、全員と順番に腕を組むって」
「もう大旦那はお庭に行っとる」
麗も、こうなっては仕方がなかった。
なかなか笑顔にはならないものの、全員でまずは記念撮影。
その後は、お世話係たちの希望通り、一人ずつ順番で腕を組んでの撮影に応じた。
そんな麗を見ながら、大旦那はおかしくてたまらない。
「麗は人気者やなあ」
「お世話係たちの、あんなうれしそうな顔は初めてや」
「それにしても、麗に愛想がない、それも面白い写真や」
ただ、麗と腕を組む写真は、お世話係たちだけでは終わらなかった。
全ての使用人が、それを大旦那に懇願。
麗は迫る出発時間に焦りながらも、懸命に応じることになった。
「麗様、ほんまお似合いです、うちは、うれしゅうてたまりません」
麗は、いつものシンプルな答え。
「ありがとう、助かります」
佳子は、着付けが終わると、今日の予定を言う。
「下鴨神社にて社頭の儀に参列となります」
「社頭の儀は午前11時半から、午前9時にはお屋敷を参列者全員で出発します」
「麗様は大旦那様と隣り合わせの席、最前列になります」
「五月様、茜様、関係筋のお嬢様、お世話係たちも参列します、ただし大旦那様と麗様よりは後ろのほうの席」
麗は「連れられて行くだけ」と思っているので、頷くだけ。
佳子の説明が続く。
「大旦那様からお話がありました寺社関係の方々」
「府知事と市長さんもお見えになります」
麗は、ここでも、ほとんど反応がない。
「大旦那に紹介されるかもしれないけれど、ただ頭を下げるだけでいい」
「九条家の後継ではあるけれど、東京の大学生でもある」
麗が着付けや、説明を受け、佳子と一緒に部屋を出ると、やはり葵祭の当日なのか、すれ違う使用人たちの顔が、いつもより輝いている。
麗は、その様子を見て思った。
「まあ、この感覚は京都ならではだろう」
「枕草子にしろ、源氏物語にしろ、葵祭は京の祭りの中では別格」
「心が浮き立つのは、仕方がない」
「東京でいえば、三社祭とか神田祭」
「歴史から言えば、葵祭とはこれも別格かな」
しかし、その神田祭を思い出した時点で、神田神保町を思い出してしまった。
そして神保町を思い出すと、図書館司書の山本由紀子のやわらかな笑顔が浮かんでくる。
「山本由紀子さんは、今頃、何をしているのかな」
「葵祭は仕方ない、九条家だから」
「でも、俺は山本由紀子さんと神田祭を見たい」
「彼氏にはなれない、年下過ぎて」
「でも、危ないところを救ってもらったし」
「一番、素直になれる女性と思う」
しかし、その麗の珍しくセンチメンタルな思いは、あっけなく中断となった。
お世話係たちの集団に、廊下で囲まれてしまったのだから。
「麗様、お人形さんみたい、麗しい」
「はぁ・・・お写真をご一緒に」
「そや、庭でみんなで」
「うちは、腕組んでもらいたい」
「うーん・・・それも順番でどう?」
「当たり前や、みんなの麗様やもの」
その大騒ぎを聞きつけたのか、五月と茜も寄って来た。
五月はうれしくて仕方がないといった顔。
「はいはい、大旦那にも申しました」
「お天気もいいので、お庭に行って全員で記念撮影しましょう」
茜は麗の腕を引く。
「麗ちゃん、さっさと歩く」
「忙しいよ、全員と順番に腕を組むって」
「もう大旦那はお庭に行っとる」
麗も、こうなっては仕方がなかった。
なかなか笑顔にはならないものの、全員でまずは記念撮影。
その後は、お世話係たちの希望通り、一人ずつ順番で腕を組んでの撮影に応じた。
そんな麗を見ながら、大旦那はおかしくてたまらない。
「麗は人気者やなあ」
「お世話係たちの、あんなうれしそうな顔は初めてや」
「それにしても、麗に愛想がない、それも面白い写真や」
ただ、麗と腕を組む写真は、お世話係たちだけでは終わらなかった。
全ての使用人が、それを大旦那に懇願。
麗は迫る出発時間に焦りながらも、懸命に応じることになった。