第133話蘭の麗への想い、奈々子の不安

文字数 1,266文字

麗が九条家と面会をしている間、「妹」だった蘭は、自室にこもり、悶々と苦しんでいる。

「麗兄ちゃん・・・逢いたいよ」
「やだよ、九条の御屋敷の人になるなんて」
「馬鹿兄なんて言えないよ、もう」
「雲の上の人になって、見下して来るのかな」
「でも、そんなことしないよね」
「一番、嫌がっていたから、それ・・・」

「やさしい麗兄ちゃんだもの」
「普段は、メチャ冷たいけど、困るとしっかり助けてくれる」
「どんなことでも、助けてくれた」
「私が粗相しても、馬鹿父に怒られていると、身代わりになって、殴られ蹴られ」
「守ってくれたんだよね、麗ちゃん、身体を張って」
「馬鹿親父は理屈が通用しないから」

「馬鹿親父の気が済んで、私が麗兄ちゃんに謝ると」
「いいよ、蘭って、許してくれたもん」
「本当は、すごくやさしい麗兄ちゃんだよ」

「小さな頃に、麗兄ちゃんのお嫁さんになるって我がまま言ったなあ」
「麗兄ちゃんは、スルッと無視だったけど」
「いろいろ文句ばかり言って、悪かったな」
「やさしいし、聞いてくれるから言っちゃう」

「とっつきにくいけど、深く知ると、いいの」
「女の子は・・・知れば知るほど・・・麗ちゃんから離れられない」
「軽いだけの女の子は気がつかないよ、麗ちゃんの良さは」

「桃香ちゃんだって、美里ちゃんだって、それがわかったから、取り合いになった」
「いつも京都から帰る時に文句言われもの」
「蘭ちゃんばかり、麗ちゃんを独占してずるいって」

蘭は、天井を見上げた。
「本当は私も、麗兄ちゃんのお嫁さんになりたい」
「なっても、血縁がなかったんだから、問題はないはずだった」
「身分は・・・違うけど・・・」
「一番長く一緒に過ごしたんだから、一番よくわかる」

「でも・・・」
涙があふれて来た。
「私は・・・犯罪者の娘・・・」
「それだけで無理・・・他の地域でも難しいのに・・・京都で、九条家だもの」


麗の「母」だった奈々子は、茜の母五月から電話を受けている。
五月
「おそらく、香料店の隆君のお見舞いで、麗ちゃんは今夜から少し九条家で預かるよ」
「茜からのメッセージで、麗ちゃんは九条家入りというか、戻りを承諾したよ」
奈々子
「ありがとうございます、ほんま、いろいろしっかりできなくて」
五月
「ええやん、今さら、障害物がお互い多すぎたんや」
奈々子
「でも、言う立場にはないけど・・・寂しい」
五月
「そやな・・・でも・・・麗ちゃんも寂しいし、複雑と思うよ」
「実の父も、実の母もこの世には無く」
「そのうえ、殺されたんやから」
奈々子
「麗は大学も京都へ?」
五月
「大旦那もそこまでは言わんて」
「事件もホトボリがさめるまでは、時間がかかるしな」
「様子を見るやろ、ただ、財団の仕事も一部任せるから」
「東京と京都を行ったり来たりになるかもな」
奈々子は不安。
「麗の身体が心配や・・・痩せとるって聞いたし」
五月の声が大きくなった。
「それもあって、麗ちゃんのアパートを買い取るんや」
「奈々子ちゃんと蘭ちゃんに住んでもらって、当面お世話をな」

「受け入れてくれるやろか・・・麗は・・・こんな私を」
奈々子は難しい顔、首を横に振っている。
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