第201話九条家のネットワーク 直美はますます麗に惹かれる

文字数 1,297文字

麗がアパートに戻ると、お世話係の直美が実にうれしそうな顔。
「お帰りなさいませ」、本当に深くお辞儀をする。

麗は、遠慮する。
「直美さん、ここは京都の九条屋敷ではありませんので」
「そこまで気を遣わなくても」

直美はようやく顔を上にした。
「いえ、うれしくて仕方がなくて」
そして、具体的な話。
「麗様、本日は九条不動産の麻友様と学生証の変更手続き、お疲れ様でした」
「それから九条本家からも連絡が入っております」

麗が直美の顔を見ると、数枚の印刷された紙を渡される。
「次の土曜日に九条家グループの理事会」
「つまり出席ということかな、そこで自己紹介とか」
「まあ、仕方ないかな」

さて、麗も直美に連絡することがあった。
「明後日の夜、吉祥寺の香苗さんの料亭で、大変お世話になった大学司書の山本様にお礼をします」
直美は頷く。
「はい、私も香苗様から連絡を受けております」
「香苗様も、九条麗様からお礼になるので、気合をいれるそうです」

麗は、少し驚いた。
直美にも、香苗が連絡があったとは、さすが九条家のネットワークと思う。
また、木曜日の午後の鎌倉香料店取材の話も、既に直美の耳に入っていた。
麗が、その件についても連絡すると、直美は同じように頷く。
「はい、鎌倉の瞳様からも、香料店の晃様からも、ご連絡がございました」

「ここまで緊密に俺の予定を連絡し合うのか」
「まさにお世話係は、秘書なのか」
「実に九条家の管理下にある、気が抜けない」
麗は、また少し息苦しさを感じる。
それでも、手に持った珈琲豆をテーブルに置いて、心が落ち着く。
「あの珈琲店に寄らなければ、ますます抑圧感だなあ」

直美も、珈琲豆には気がついていた。
「あら、麗様自ら珈琲豆を?」
「申し訳ございません」
と、また頭を下げようとするけれど、麗はそれを制した。
「いや、通りがかりで買っただけで」
「ほんの気まぐれで」
事実がそうなので、他に言いようがない。

それでも、麗は、ホンジュラス豆の珈琲を飲みたくなってしまった。
「一人住まいなら、神経も使わないけれど」と思いながら、ホンジュラス豆を手に取り、ミルに入れようとすると、直美が申し訳なさそうな顔。
「麗様、それは私にお任せください」
「麗様に、珈琲を淹れてもらうなど、恐れ多くて」

麗は、その反応が実に面倒。
「いえ、大したことではないので」と返すけれど、何しろ直美が泣きそうな顔。
これでは、直美に任せるしかない、

麗が直美に任せると、直美の表情が明るいものに変わる。
「茜様からも教わってあります」
「麗様の珈琲は格別とか」

「それなら俺が淹れたい」と思うけれど、直美の動きは速い。
豆はすぐに挽き終わり、そのままフレンチプレス器に入れて、熱湯を注ぐ。

麗が「直美さんも一緒に」と声をかけると、ますますうれしそうな顔。
「ありがとうございます、いい豆ですね」
「美味しそうです、すごくフルーティーな香りです」

麗は、そこで思った。
「少々、ギクシャクした」
「任せることは任せたほうがいいのか」
「これも伝統なのかもしれない」

珈琲をそれぞれのカップに注ぎ終えた直美が微笑んだ。
「麗様と、もっとお話がしたくてなりません」

麗は、「何の話やら」と、少し腰が引けている。
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