第269話茜は麗の気持ちを考える 詩織は強気に麗を誘う。

文字数 1,240文字

茜は、麗が何故、桐壺更衣の歌を詠んだのか、それを考えながら麗の顔を見た。
そして、驚いた。
「源氏物語の最初の和歌は、確かに桐壺更衣の歌やけど」
「うわ・・・あれは麗ちゃんが、メチャ・・・心閉ざしとる時の顔や」
「あれは辛い思いを隠しとる」

そして桐壺更衣の歌をもう一度考える。
「桐壺更衣の死は、弘徽殿女御や宮中の女性全てから苛められたストレス死だった」
「身分を超えて帝の寵愛を集め過ぎたのが、苛められた原因」
「しかし、それとて、桐壺更衣に、どれほどの非があるのか」
「そもそも帝が桐壺更衣だけを愛し過ぎたことにも原因がある」

「桐壺更衣も、帝の度を過ぎた愛情に困っていたのではないか」
「それで苛めがひどくなるのだから」
「別れた道を行くのは悲しい・・・もっと生きたいは・・・帝に対してだけではない」
「それ以上に、我が子の光にも、向けられている」
「となると・・・」

茜は、もう一度、麗の冷たい顔を見た。
そして、背筋に氷水が流れるような震え。
「麗ちゃん・・・麗ちゃんのお母さんも・・・恵理に殺され・・・死ぬ時に・・・」
「どれほど、麗ちゃんのことを思ったのか」
「生まれて間もない子供を残して、自分は殺され、死んでいく・・・」
「辛いなんて言葉では言い切れん・・・」
「もう怖くて、恐ろしくて、無念で・・・」
「麗ちゃんは、実のお母様の無念にも、思いをやっているのかもしれん」
「そうなると・・・麗ちゃんに桐壺から始まる源氏は正直、酷や」
「だから、心を閉ざして、冷たい顔になる」

茜の不安そうな顔は見ず、麗は話を決めた。
「詩織さんの考えはわかりました」
「少し、私の方でも、考えてみます」
「ただ、明日は葵祭、その翌日からは都内に戻ります」
「京都に戻って来るのは次の土曜日、理事会もあります」
「それ以降に、具体的な検討会ではいかがですか」
「先ほど詠んだ、桐壺更衣の歌をテーマに」

この提案には、詩織も葵も、全く異論はない。
詩織は満面の笑顔。
「楽しみにしております」
葵も、話がまとまって笑顔。
「私も桐壺をもう一度読み直します」


源氏物語のブログの話も、一旦終了し、雑談となった。

「明日は葵祭、もう準備は?」
詩織
「はい、今年は張り切ります」

「いつもの年より増して、しっかりと」

麗は、無表情、黙っている。
茜が麗をフォローする。
「明日の麗ちゃんは寺社のお偉いさんと、顔合わせ」
「だから、近くにはおるけど、ほぼ別行動、残念やけど」

詩織は頷いて、また話題を変えた。
「麗様、京都で街でなくて行きたい場所は・・・」

違うことを考えていた麗は、虚を突かれた。
しかし、考える暇もなかったのか、すぐに答えた。
「うーん・・・街でないと・・・大原でしょうか」
「寂光院のあたりをブラブラと」

詩織は、また笑顔。
「あら・・・案内します!」
「美味しいものもたくさんありますし」

しかし麗は、すぐに落ち着いた。
詩織を軽くかわす。
「いえ・・・また、いつか程度で」
「食べ物が目的ではないので」

その詩織と麗のやり取りを、茜は面白そうに、葵は不安そうに見つめている。
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