第127話九条様との面会(7)

文字数 1,218文字

大旦那が苦しそうな顔になった。
「隆も、あかん」
「いつ何があってもおかしゅうない」
「だから麗は、そんなことになってはならん」
「そんな若死にが続いてはならん」

麗は、その「若死に」に、「実の父兼弘」も含まれていると理解する。
確か、癌やら何やらの「病死」と聞いた記憶もある。
しかし、「実の父」と理解していなかった当時の麗にとって兼弘は、九条家、雲の上の存在。
そのため、それほど切実に考えてはいなかった。

その麗は少し前に考えていたことを、また思い出してしまった。
そして、大旦那の話の腰を折れずに、聞き出し確認したかったけれど、それが出来なかったことである。

麗は、結局、考え込んでしまった。

「でも・・・実の父は、間違いなく癌とか何かの病死なのだろうか」
「忘れようとしても忘れられない、あの二人のおぞましい声と姿」
「あの最後の言葉」
「その後すぐに、兼弘さんの死の連絡」
「おぞましい様々を見たり聞いたりした日は、俺は九条家にいて、元気な兼弘さんを見ている」
「とても、癌だとか急死に至る病気の顔ではなかった」
「とすれば、あのおぞましい二人の最後の言葉が、本当とすれば」
「俺の実の母が毒殺されたように」
「俺の実の父の兼弘さんも、毒殺されたのではないか」
「しかし・・・今まで言い出せなくて、苦しんだことだ」
「とても田舎の家では言い出せなかった」
「何しろ、そのおぞましい声の当事者は、父」
「もう一人は・・・恵理さん」
「そんなことを、父にも母にも聞けるわけがない」
「ましてや、恵理さんにそんなことを・・・」

その考え込んだ麗に大旦那と茜が気がついた。
大旦那
「麗・・・どうかしたんか?お前の身体にも不安があるんか?」

「心配や、病気やら教えて欲しい、早く病院や」

麗は首を横に振る。
「いえ、僕は病気はありません、痩せてはいますが」

それでも、心配そうに自分を見つめてくる大旦那と茜に返す言葉を考える。
「確認できる範囲での、質問をしよう」と考え、慎重に言葉を出す。
「あの・・・兼弘さんなんですが」

大旦那は「うん?」といった顔。
麗の次の言葉が読めないようだ。
茜はじっと麗の顔を見るばかり。

麗は意を決した。
「本当に、癌とか病死なんですか?」
「すぐ前に顔を見ていて、とても病気とは思えなかったので」

大旦那の表情が変わった。
「突然死や・・・癌の兆候はあったけれど初期段階や、死ぬほどやない」
「癌とか病気としたのは、京の街衆への体裁や」
「医者は・・・苦しそうな顔で、突然死とだけや」

茜は麗に強い視線。
「麗ちゃん、何か・・・知っとるん?」
「それか、気にかかることを?」

麗は、次の言葉を出すのに、実に難儀する。
「男」である大旦那はともかく、「女」である茜の前では、とても口に出せない内容だったから。

「あんなこと、どうやって穏便に話をすればいい?」
「それに・・・医者が苦しそうな顔で、突然死?」
「ますます、変だ、恐ろしいことかもしれない」

普段は冷静な麗の身体が、ガタガタと震えだしている。
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