第191話風呂場での交情 そして夕食

文字数 1,196文字

荒い呼吸がおさまり、直美がようやくトロンとした声。
「ありがとうございます・・・麗様・・・」
泣いているのか、声が湿っている。

「もう少し、このままで」
「動けません」

麗が直美のお尻を支えると、直美の身体の力が抜けた。
「はぁ・・・助かります」
「感じすぎて・・・気持ち良すぎて・・・」
「うれしゅうて・・・ありがたくて・・・」

麗は、直美を抱きしめながら思った。
「もしかすると、これが風呂に入るたび、毎回なのか」
「成り行きに任せてしまったけれど」
「九条屋敷での葉子も、これを目的にしていたのか」

「女子に恥をかかせないで」と、茜が言ったことを思い出す。
確かに、葉子には慎重に対応して、湯女を断った。
「ある意味、葉子にとっては恥をかいたことになるのか」と思う。
そうなると、次に葉子が、ここのアパートで、あるいは九条屋敷で湯女として入って来た場合に、断ったりすると、二重に恥をかかせることになる。

「それは、また問題がある、こうして直美を抱いてしまった以上」
「下手な嫉妬の関係を九条屋敷に作ることは、得策ではない」

麗がいろいろ考えていると、直美の胸の上下が、ようやくおさまった。
直美は、顔を輝かせて麗を見る。
「ありがとうございます、お夕食の準備をいたします」
麗が腕をほどくと、名残惜しそうな顔。
「麗様、夜にもいただきますので」

麗は、何も答えられなかった。

夕食は、マルセイユ風の海の幸をたっぷり使った鍋料理。
トマトや香味野菜、ハーブで風味をつけた濃厚な魚介のスープに、あいなめ、ほうぼう、鯛などが入っている。

麗は、驚いた。
「直美さん、本当に美味しい」
「鮮烈な味で、後を引きます」

直美は、ますます胸を張る。
「はい、ありがとうございます」
「これほど食べていただくと、作り甲斐があります」

麗は、「母」だった奈々子の料理を思い出した。
「ほとんど魚料理はなかった」
「そもそも、魚をさばけなかった」
「京都には海がないからというのが理由」
「田舎町は漁港も近かったけれど、行くこともなく毛嫌いしていた」
「魚臭さは嫌いとかで」
「手作りの料理も、ほとんどなかった、近所のスーパーの総菜ばかり」

そこまで思い出し、直美の料理を食べる。
「あまり食など関心もなかったけれど、手作りは美味しい」
「味覚は・・・ある程度はあるらしい、味付けはよくわかるから」
「京都の香料店で、香りと味は仕込まれたからかもしれない」
「晃叔父も、丁寧に教えてくれたから」
「奈々子さんは、そんなことは、まずなかったけれど」

直美は、麗の食が進むのが、うれしくて仕方がない。
「心配しとったけど、大丈夫みたいや」
「茜さんが欠食気味と言うとったけど」
「普通に食べとる、安心や」

そして麗の動く口元にも、目が離せない。
「はぁ・・・艶めかしい・・・きれいな唇やなあ・・・」
「お人形さんみたいや・・・」
「夜は・・・思いっきり・・・」

麗は食べるのに夢中、直美はその麗を食べたくて仕方がない。
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