第306話佳子の関東風朝食 大学では葵にせまられる

文字数 1,135文字

佳子が作った関東風朝食は、焼き魚、玉子焼き、豆腐、佃煮、なめこの味噌汁。
佳子は、不安そうに麗の顔を見る。
「どうでしょうか、味が濃いとか、薄いとか」

麗は、食が進む。
「はい、関東風は好きです」
「シャキッとした感じで」
「京都風が薄いとか嫌いと言うわけではなくて、これはこれで好き」

佳子は、ホッとした顔。
「はぁ・・・またドキドキしました」

麗は、もう少し褒めようと思った。
「アジの干物は旨味が素晴らしい、沼津?これ天日干しかな」
「卵も新鮮、味が濃い」
「豆腐も・・・これも味が濃くて新鮮」
「漬物は、生アミ、佃島かな、噛むごとに力が湧いてくる」
「味噌は・・・信州かな、これも好き」
「とにかく完璧な朝食と思います」

佳子の顔が、またパッと輝く。
「ありがたいことで、ますます、楽しみが増えました」

麗は、話題を変えた。
「今日は授業に出ます、当たり前ですが」
「明日の午後は、神保町で歴史の先生とお話になります」
佳子が頷くので、麗は話を続ける。
「佳子さん、金曜日の夜に、お出かけしましょう」

佳子が、またうれしそうな顔。
「はい、どこにでも、お供します」

麗は、その顔をできるだけ、やわらげた。
「せっかく都内にいますので。京都では食べられないようなもの」
「予定としては、銀座あたりを考えています」
佳子としては、都内の地理もよくわからない。
「はい、楽しみにしております」
そんな状態で、朝食を終えた。

さて、麗はそのまま登校、大学に入ると葵からのメッセージ。
「麗様、今はどちらに?」
麗は、そのまま「はい、大学構内に入りました」と返す。
そこで、少し奈々子の様子も気にかかる。
葵も、即返信。
「あ、申し訳ありません、今、お姿を」
確かに、その返信通りだった。
少し前方から、葵が麗に向かって走り寄って来た。

麗は首を横に振る。
「何も走らなくても」
葵は、神妙な顔。
「そう言われましても、走りたかった」
麗は葵を諭す。
「転んだりしたら、困ります」
葵は、その麗に、少し反発。
「転びません、こんな距離で」
「お顔を見たくて仕方なくて」
麗は、その言葉を受け流す。
一緒に住めると思った葵の気持ちを、大旦那の意向もあったけれど、ふいにしてしまったのだから。
麗は、葵に尋ねた。
「ところで、もしかして仕事の話かな」
葵祭の後に、九条財団のブログを書くことを思い出した。
ただ、頭の中には、「奈々子への心配」が消えていない。

葵は、いきなり麗の手を握った。
「はい、それもあります」
「で、奈々子さんは、ご心配なく、元気でした」
「美幸さんも、太鼓判です」

麗は、ホッとした。
やはり葵も麗の気持ちをわかっていると、心強く思う。
「ありがとう、葵さん、迷惑かけます」

葵は麗の手を、さらに強く握る。
「いえいえ、私をもっと頼って欲しくて」
葵は、麗を強く見つめている。
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