第372話麗と葵の和風喫茶デート

文字数 1,287文字

麗が葵を連れて入った和風喫茶は、世田谷の住宅街の中にあり、白壁の可愛らしいケーキ屋さんのような雰囲気。

葵は、その可愛らしさが不安。
「まさか、麗様、一度ここに?」
まさか自分の知らない女性と、ここに入ったことがあるのか、どうしても確かめたい。

麗は、「え?」と目を丸くする。
「いや、つい最近、喫茶店で検索していて、ここを見つけました」
「こんな可愛らしい店に、男が一人で入れません」

葵としては「男が一人で入れない」は、やや満足できない回答になるけれど、「最近の検索」で、一応胸をなでおろす。

さて、店内も和風ではない。
エレガントなアールデコ調の内装。
店員は男女とも上品なスーツ姿、その中の女性店員がやわらかな笑顔で席に案内する。
「当店は、原則的に日本各地の契約茶農家から茶を仕入れております」
「それと、生菓子につきましては、この店の近所の老舗和菓子店から」
「この喫茶店のオーナーでもあります」
「お干菓子につきましては、京都の老舗和菓子店からとなっております」
「それでは、注文がお決まりの頃、お伺いいたします」

女性店員が一旦去ったので、麗と葵はメニューを見る。

「川根茶かなあ、美味しい」

「宇治茶もありますねえ」

「他には狭山茶、愛知の西尾茶、伊勢茶、奈良の月ケ瀬、福岡の八女茶か」

「生菓子も上品なものが多く・・・」
「でも麗様、この干菓子の店は・・・よくお屋敷に出入りしている・・・」
麗は、頷く。
「そう、この店が入っているから、ここに来ました」
「それなりの信頼がないと、出品もしないはず」

麗は最初に目にした川根の玉露と干菓子、葵は月ケ瀬茶と「琥珀」と名付けられた水菓子を注文。

「名前そのものです、琥珀色の錦玉羹に大徳寺納豆が浮かんでいます」

さて、注文したお茶と煎茶碗、和菓子が、少しして麗と葵の前に。

「ガラスの透明の茶器なので、色がよくわかるし、茶葉が開いていくのが飲み頃を示すサイン、この煎茶碗も薄青で上品」
葵は、目を丸くする。
「へえ・・・焼き物の急須ばかりで・・・ただ時間だけで、淹れておりました」
「確かに、これだと色も茶葉の動きも楽しめます」

「ご実家では、昔ながらの急須で?」
葵は頷く。
「はい、先祖代々とか」
「それはもう、手入れも丁寧に」

「それは九条屋敷でも、同じです」
「ただ、美味しいお茶を飲むなら、このほうがいいかな」

「茶葉が開いてきました、いい香りも」
「幸せです、この雰囲気、いい色が出ています」
麗は、「そろそろかな」と、玉露を一口。
「さすが川根、味が濃くて甘味が」
葵は、月ケ瀬茶も美味しいと思うけれど、麗が美味しそうに飲むので、自分も川根茶を飲みたくて仕方がない。
じっと見ていると麗も感じとったらしい。
店員を呼び煎茶碗を一つ追加、葵の前に置き、川根玉露を注ぐ。

少し赤い顔になる葵に、麗。
「この店の外装、内装で和風喫茶をしても、違和感はないかなあと」

「何かお考えが?」
麗は苦笑。
「いや、まだまだ先の話、構想の前の前、やることが多くて」

葵は、麗の苦笑には惹かれるし、「まだ先の話、構想の前の前」の時期に、麗と一緒の空間を過ごしているのが、うれしくて仕方がない。
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