第239話蘭は麗からのメッセージに喜ぶ 麗は京都に戻る

文字数 1,139文字

期待から落胆となった蘭の心を救ったのは、突然入って来た、予想もしていなかった麗からのメッセージだった。
「転校のお世話をしてくれた日向先生にお礼を言ってある」
「蘭からも、お礼を言うように」
「住まいは鎌倉、蘭が落ち着いたら一緒にお礼に行こう」

蘭は、うれしくて飛び上がりそうになった。
引っ越し作業もそこそこに、母奈々子に報告する。

しかし、またしても母の反応が弱い。
「そやねえ、ありがたい」
「それはせなあかん」
「一緒に行っておいで」

蘭は、母に、またがっかり。
「何、このやる気のない反応・・・」
「こんなにお世話してもらって、親も出向くのが当たり前じゃない?」
それでも、いつまでも、こんな母にはかまってはいられない。
「麗ちゃんに逢える、一緒に鎌倉に行ける」のほうが、大きい。
その後は、うきうきと引っ越し作業に励むことになった。


麗と直美が、京都駅に到着すると改札口に、執事三条の姿。
麗は軽く頭を下げる。
「わざわざ、ありがとうございます」

三条は、本当に深いお辞儀。
「お帰りなさいませ、麗様」
その笑顔も、この前に京都に来た時とは、全く違い、輝いているようにも見える。

麗は思った。
「どうして、こんなに顔が変わる?」
「何をしたわけでもないのに」
「執事長になったうれしさか?」
「いずれにせよ、仕事上の顔だ」
「簡単に信じるわけにはいかない」

麗と直美が、お迎えの黒ベンツに乗り込んでも、三条の笑顔は消えない。
「お屋敷のみんなが、首を長くして待っとります」
「東京に行かれてから、指折りまでして」
「今日はどないされとるやろとか」
「あと何日で帰って来られるとか」

直美は、顔を下に向ける。
そして、寂しさがこみあげて来る。
「もう、麗様を独占できるのは、当分ない」
「幸せな時期が、終わってしもうた」
「はぁ・・・次までが長い」
「京都にいる時は、麗様は、みんなの麗様やもの」

少し黙っていた麗は、三条に声をかけた。
「午前中にお屋敷に入るのですが」
「時間があれば午後に出かけたいなあと」

三条は、少し驚いた顔。
「大旦那様、五月様、茜様と葵祭の打ち合わせがございますが」

麗の答えは、意外なもの。
「打ち合わせも対応しますが」
「楽器屋で持ち運びできるキーボードとヘッドフォンを買って」
「隆さんに演奏を聴かせるという約束があったので」

三条の顔に、再び笑顔が戻った。
「ああ・・・それはありがたいことで」
「また、隆さんも、みんなも喜びます」
「うれしゅうて、涙も出てきます」

直美も麗の言葉に感動した。
「ますます、情けが深い人や」
「麗様のピアノかあ・・・噂には聞いとったけど、隆さんも幸せや」
そして、また複雑。
「湯女したいなあ、またベッドで可愛がって欲しいなあ」

ただ、麗は直美の顔は見ない。
手帳を取り出し、そこに曲名らしいものを書き始めている。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み