第128話九条様との面会(8)

文字数 988文字

この麗の異変には、大旦那も茜も心配になった。
大旦那
「どないした?麗」
茜は麗の手を強く握る。
「何でも聞く、言わんとわからん」

麗は目を閉じた。
言葉に出すにも、とても目を開けて、大旦那と茜の顔を見ながらでは無理。

大旦那
「ゆっくりでええ、言える範囲でも」

「言い辛いか?でもな、ここにいる三人が血縁や」
「ここで言わんと・・・よそで言えん話なんやろ?」

麗は、観念した。
もう、どうなっても仕方ないと思った。
茜の手を握り返して、ゆっくりと話し出す。

「九条の御屋敷で・・・奥座敷で・・・」
「トイレに行く時に」
「言い辛いけれど・・・あの・・・」
「男女が・・・裸で抱き合っていて・・・」

大旦那は顔をしかめた。
茜の身体も震えた。

麗は、ますます苦しそうな顔。
「父・・・だった宗雄」
「そして、恵理さん」
「聞こえていた声でわかって」
「ガラス障子だから、見えてしまって」
「気がつかれると、また殴られたり蹴られたりするから、トイレには行けなくて」

大旦那は深いため息、何も言わない。
茜は、震えが止まらない。

麗は、グッと唇をかみしめた。
「恵理さんが笑い声で」
「即効性の薬とか」
「宗雄が・・・日本にはないとか」
「恵理さんが、医者には因果を含めたとか」
「宗雄が笑って・・・ちょろいもんやって」
「その後すぐに、本当の父さんが・・・」

大旦那がゆっくりと口を開いた。
「そうか・・・それで、ようわかった」

麗は、激しく泣き出した。
「ごめんなさい・・・」
「あの時・・・意味がわからなくて・・・」
「それ以前に恵理さんと、宗雄のことで・・・パニックで」
「気がついていれば・・・本当の父さんは・・・助かったのかもしれない」
「僕が悪い・・・」
「気がつかなかったのが悪い」

大旦那も麗の手を握った。

「それは違う」
「麗、よう言ってくれた」
「言い辛かったったやろ」
「その前に、そんなものを見れば、辛かったやろ、ずっとな」
「誰にも言えん、まして一緒に暮らしてきた当の宗雄にも、母をやらせた泣くばかりの奈々子にも」
「宗雄にそんなことを聞こうものなら、お前が先に殺されたかもしれん」
「麗は、誰にも言えず、誰も信じられず」
「辛い日々を送らせてしもうた」

茜も泣き出した。
「麗ちゃん、それ・・・辛過ぎや」
「さんざん折檻されて育って、そんな汚らしいものを見て・・・父さまを殺されて」
「おそらくそうかもと思っても、誰にも言えず」

麗は、すっかり肩を落としている。
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