第365話予定が様々に増える麗は専属固定の秘書が欲しいと考える。

文字数 1,352文字

蘭の転入のお礼や、いきなり言われた古今和歌集現代語訳の話を終え、麗は大学を出て、帰宅の途につく。
蘭は、まだ名残惜しそうだったけれど、奈々子の心配もあるので、葵と一緒に久我山のアパートに帰らせた。

ようやく一人になった麗は、やはり気が重い。
「九条家の次席理事、やがては当主になるだけでも、耐えがたいほどに重圧」
「石仏の話も、意外なほどに、京都では盛り上がっている」
「夏に本格的な作業か、そうなると俺の夏休みは、ほぼ無い」
「そもそも京都嫌いの俺が、大学卒業後は、京都に住むなんて」
「それも、おそらく死ぬまでか」
「九条財団のブログだけならいいけれど」
「それに高橋麻央と源氏物語の共著か」
「今度は古今和歌集まで」

電車内を見回すと、そろそろ就職活動なのか、リクルートスーツに身を包んだ学生たちがチラホラと乗っている。
「俺は、就職活動も何もない」
「すでに仕事が始まって、どうやら報酬も振り込まれているらしい」
「それが、就職活動に必死な彼らにとってみれば、お気楽と言うかもしれない」

茜から言われていた、個人秘書の話を思い出した。
「確かにこの状態では、やがてスケジュールに混乱が生じるのは必定」
「それで困るのは俺だけではない、九条家と京社会、それ以外にも関係する人や業界」
「安易に、銀行の直美と。不動産の麻友、仲間外れにできないからで学園の詩織と言ったけれど」
「どうにも、しっくりこない」
「やはり特定して、落ち着いた人に、物腰のやわらかい人に、任せたい」
「秘書業務検定とか、受けている人はいるだろうか」
「やはり、お嬢様育ちの、あの人たちに任せるのも不安がある」
「人にお世話をされて管理されて育って来たあの人たちに、人の世話も管理も簡単にできるわけがない」

麗は、そんなことを考えながら、高輪の家に帰った。
涼香が、いつもの通り、満面の笑みでお出迎え。
「麗様、お疲れ様でした」

麗は、涼香をやわらかく抱き、ソファに座る。
涼香は、早速、ローズヒップのお茶を麗の前に。

久しぶりに麗の目が輝いた。
「涼香さん、ありがとう」
「すごく美味しい、疲れが取れます」

涼香もうれしそうな顔。
「はい、喜んでいただいて、こちらも」
「ほんま、励みになります」

そして、九条家からの連絡になる。
「土曜日の午後に、鈴村八重子様」
「同じ土曜日の夜に、銀行の直美さんとの、ご面談」
「それから、日曜日の午後には石仏の会議」

麗は、そこまでは承知しているので、黙って頷く。
そして、それ以外にも、連絡があると、察している。

涼香は、メモ帳を見た。
「和菓子組合のお方が、お目通りをしたいと」
「時間は、麗様のご都合でと」
「何でも、時代和菓子の試作品ができたとか」

麗は、即答。
「そうなると・・・日曜の夜」
「お店が締まってからでは、どうでしょうか」
「日曜の日中は、観光客も多いでしょうし」

涼香は、麗の配慮を感じた。
やはり、九条家に面談に来る以上は、和菓子店の店主たち。
その店主が、忙しい日曜日の日中、店を留守にすることはできないのだから。

麗は、涼香の顔を見た。
「私だけでなくて、九条家全員のお菓子試食会にしましょう」
「たくさんの感想を聞いたほうが、職人の励みとか、参考になると思うので」
涼香は、再びうれしそうな顔になる。

しかし、麗はこの時点で、やはり専属特定の秘書が必要と考えている。
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