第385話銀行頭取の娘直美との面談(1)

文字数 1,344文字

夕食も終わり、夜7時、麗と直美との面談が始まった。
直美は、九条家の持つ銀行頭取の娘、そのため「銀行の直美」と呼ばれている。
また直美は、子供の頃、下鴨神社の糾の森で、転びそうになったところを麗に助けられた記憶はあるものの、麗はほとんど記憶がない。
そのため、直美はうれしそうに話すものの、麗の反応は弱い。

直美
「麗様、京都には慣れて来られました?」

「はい、少しずつですが、皆様の御厚情のおかげで」
直美
「毎週、東京から来られるのも、なかなかお忙しく」

「いえ、当然のことなので、ご心配はいりません」
直美
「葵祭での麗様、それから石仏のお話、時代菓子とか、京の街では相当な好評で、うちもそれを聞くとうれしくて」

「ありがたいことですが、まだまだ大学に入りたてで」
「あまりの評価は、心配になります」
直美
「そんなことをおっしゃらずに、皆、京のことを、よう考えてくれはると言っとります」

「ありがたいことです、これからが大変なので、気は抜けません」

そんな無味乾燥な会話が、少しずつ変わり始める。
直美
「麗様、ところで、古くからの真面目な職人が、高齢化して後継者の確保が難しく」

「それは、日本各地、どこにでも、その話題は尽きません」
「職人自身が、時代の流れとか、自然淘汰とかと、諦め気味」
直美
「行政も、観光資源にならない限り、見捨てるような」

「やはり税金は、その効果が予見できない対象には、使えません」
「それは、当然のことと、思います」
直美
「うちは、それが心配で」
「京にずっと受け継がれて来た技術も品も、姿を消してしまうような」
麗は、直美の次の言葉を予測する。
「つまり、それでは、あまりにも情けないと?」
「できる限り、伝統を守りたいと?」
直美は、頷く。
「土産物屋でも、京で作ったまともな品は少なく」
「容器だけ京都風で、中身はどこで作ったものか、酷いものも多く」
「それを、何も知らない観光客に高値で売りつける」
麗は微妙な言い回し。
「売主としては、手間暇かからず、利益が出ます」
「銀行としては、利益を出すところでないと、融資も、その継続が難しい」
「ただ、土産物屋の利益のために、銀行の安定経営のために、まっとうな京都をつぶしてもいいのか・・・でしょうか?」
直美は、思っていたこと、そのものを言われたらしい。
「はい、いきなり難しい話になって、申し訳ありません」

麗は難しい顔
「確かに九条後継で、今後の京への責任があります」
「しかし、先ほども言った通り、平日は都内、休日は京都の生活」
「今の時点で、私が具体的に何を、とは言えることはありません」
「それに大旦那とも、九条の理事会でも検討が必要」
「それは理解していただけますか?」

直美が、困ったような顔になるので、麗は少し顔をやわらげる。
「真面目なお話なのですが、あまりにも、話が抽象的と思います」
「一般論はわかります、私も考えないと言っているわけではありません」

直美は、ようやくホッとした顔。

麗は続けた。
「それでも、一度、時間を作って、実態を何例か見ようかと」
「もちろん、それで全てがわかるとか、全て同じ問題とは言えないけれど」

直美の顔が赤くなった。
「ご一緒させてもらって・・・どうでしょうか」

麗は、少し戸惑う。
本音としては、「お忍び」で動こうと思っていたのだから。
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