第120話日向先生と高橋麻央、そして佐保

文字数 1,158文字

連休前の最後の日、高橋麻央は、大学の古典文化研究室で、日向教授と向かい合っている。

高橋麻央
「まさかの展開になりましたね」
日向
「まあ、どうにも、初めて見た時に、九条様のお顔に実によく似ているなあと」
「そして京都に行った折に、香料店に寄ったら、店主の晃さんがよろしくと」
高橋麻央
「ますます責任重大となりました」
日向
「今は、しっかりと育てて欲しいとの、九条様と香料店の晃さんも、おっしゃられて」
「ただ、いずれ早い時期に京都に戻されたいようですね」
高橋麻央
「麗君は、あまり京都の話をしたがりません」
日向
「何やら深い事情があるような」
高橋麻央
「先生は、ある程度はご存知で?」
日向
「はい、ある程度は・・・しかし、口に出すことではありません」
「教師の仕事も、その分を超えるべきでなく」
高橋麻央の顔が赤らんだ。
「とにかく、一度触れ合うと、引きつけられます」
「良きにつけ・・・三井芳香のような危険な場合もありますが」
日向は、穏やかな顔。
「大丈夫です、麗君は、もっと成長する人です」
「能力は、はかりしれない」
「今は、難しい子供時代、高校生まででしょうか、それを送ってきたので」
「実に、心を閉ざしていますが」
高橋麻央
「その心を解き放ってあげたくて」
「笑顔が見たくてたまりません」
日向の声が力強い。
「とにかく、彼を支えましょう」
「彼と巡り会ったのも、何かの縁」
「その彼を学術面で支えて、育てること」
「日本文化の優秀な継承者を、育てましょう」
高橋麻央
「とても研究助手の手伝いなんて、言いづらくなりました」
「声をかけるのも、恐れ多くて」
日向は、首を横に振る。
「いや、学者は、そんなことを気にしていてはいけません」
「身分で学問をするのではないのですから」
「私の恩師も、天皇陛下にご進講なされました」
「一定の敬意を払うのは当然、しかし、学問は学問です」
高橋麻央
「すみません、つい、動揺しました」
日向は柔らかな顔に戻った。
「まあ、私も含めて、一緒に麗君に接しましょう」
「大丈夫です、源氏は奥が深い」
「解釈し尽くされているようで、まだ新しい解釈が出てくる」
高橋麻央
「不思議な作品ですね、本当に」


高橋麻央が日向先生とそんな話を終えて、自由が丘の実家に帰ると、妹の佐保が涙顔。
麻央
「どうした?会社でトラブル?」
佐保は下を向く。
「違うよ」
麻央は気がついた。
「麗君のこと?」
佐保の声が湿った。
「麗君、京都に戻っちゃうのかな、やがては」
麻央は、佐保の肩を抱いた。
「死ぬ気でついて行く?」
「その覚悟はあるの?」
佐保の身体が震えた。
「確かに、付き合って短い」
「とてつもない高貴な血筋もわかる」
「でも・・・離したくない・・・離れたくない」
「欲しくてしかたない、抱きたくて抱かれたくてしかたない」

「魔性の御血筋か・・・恐るべし」
麻央の背中も、ゾクゾクとして、仕方がない。
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