第11話「タクシーは不要?」女将はそれ以上に不思議な言葉を麗にかける。

文字数 1,101文字

またしてもうろたえる麗に、高橋麻央から声がかかった。
「ごめんね、麗君、三井さん、少し酔ったのかな」
「珍しく二杯も飲んでいたし・・・少し立ち上がれないかな」

麗は、実に反省した。
三井芳香のグラスが空き、なんとなく飲みたそうな雰囲気を察して、冷酒を注いでしまったこと。
ただ、美味しそうに飲んでいたので、ここまで立ち上がれないほどになるとは、考えていなかった。

日向先生からも麗にお言葉。
「麗君、申し訳ないのですが、少し介抱というか、酔いが冷めるまで一緒にいてあげて欲しいのです」
「帰りは、私のタクシーチケットを使っていただいて、かまいませんので」

麗は、少し戸惑うものの、基本的なことを聞かなければならないと思った。
「わかりました、できるだけ対応をさせていただきます」
「ところで、三井さんのお宅は、どちら方面なのでしょうか」

下を向いて苦しそうにしていた三井芳香が口を開いた。
「麗君、ごめんなさい、本当に少しクラクラして立ち上がれないの」
「だから、麗君、帰りは送って欲しいの」

麗も、少し不安、しかし目的地がわからなければ、タクシーにも乗りようがない。
麗は声を落として聞く。
「それで、お家は・・・」
三井芳香は、苦しそうな声。
「うん、麗君の近くかな、久我山」

麗は「おそらく高橋麻央から俺のアパートを聞いたのかな・・・個人情報なのに」と思うけれど、付き合うのも今夜限りと思うので、不問にする。

「わかりました、お近くですね、お送りいたします」
どうやら、すんなりとは帰れないとは思ったけれど、少々寄り道をするだけと、ここは我慢をするべきと思う。

そして、日向先生と高橋麻央にも、頭を下げる。
「今日は、本当に有意義なお話と美味しいお料理、ありがとうございました」
「三井さんは、僕が責任を持ちまして、お家まで送り届けます」

その麗の言葉に、日向先生と高橋麻央は、安心したようだ。
日向先生
「それでは、よろしくお願いいたします」
高橋麻央
「これにこりずに、またおいでなさい」
二人は、少し麗に頭を下げて帰って行った。

帰り際に日向先生が、料亭の女将に事情を話したのかもしれない。
少しして、心配そうに料亭の女将が個室に顔を見せた。

麗は、女将に深く頭を下げる。
「誠に申し訳ありません、タクシーを呼んでいただきたいのと、タクシーが到着するまで、休ませてあげたいのですが」

女将は、麗を柔らかく見つめ、少し笑う。
「はい、まったくご心配はいりませんよ」
「それから、タクシーは、不要です」

麗は、「タクシーが不要?」と、意味不明になるけれど、女将の次の言葉はもっと意味不明なものだった。

「大きくなりましたね、麗君」

女将は、柔らかな笑みで驚く麗を見つめている。
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