第394話麗は議員秘書に不快感

文字数 1,361文字

午後3時半、祇園の料亭からのお迎えの車が九条屋敷玄関前に横付けになった。
大旦那と麗が、車に向かって歩き出すと、助手席のドアが開き、若い男が降りて来た。
そして、大旦那と麗に、深くお辞儀。
「浜村と申します、竹田先生の秘書を仰せつかっております」
「本日は、よろしゅうお願いいたします」

大旦那は顔を既に知っているらしい、頷く程度。
しかし、麗は表情には出さないけれど、一見して不快感。
「他にも先生方の秘書はいるだろうに、何故こいつだけ乗って来る」
「どういう割り振りをしたのか、こいつの独断か?」
「それに、あのカッチリと固めた髪の毛、スーツも高そうだ」
「顔は笑っているけれど、目が笑っていない、陰険な性格か」
「お辞儀も、いかにも芝居がかっていて、気持ちが悪い」

大旦那と麗が車に乗り込むと、浜村秘書は、機関銃のように話す。
「竹田先生や、他の先生にも、ご了承を願いまして」
「私が先生方の秘書を代表して、お迎えにあがった次第です」
「はい、それはもう、麗様のご尊顔を、一瞬でも早く拝みたいと思いまして」
「素晴らしい評判です、時代菓子から葵祭でのご立派な所作、それから石仏保存調査」
・・・・
芝居がかった口調で話し続けるので、麗は途中から、聞いていない、
それでも、大旦那に耳打ち。
「時代和菓子の試食が、夜にあります」
「それまでには戻りたいのですが」

大旦那は、頷く。
「ああ、心配いらん、これも夜やったけれど、予定を変更させた」
「顔見せて、適当にあしらえば、かまわん」


さて、九条屋敷と祇園は近い。
渋滞もなく、九条屋敷を出て、ほぼ10分後に、料亭に到着。
いかにも高そうな着物を着こんだ女将や、仲居たちに、出迎えされるけれど、麗は途端に吐き気。
「うわ・・・この気持ち悪い香りは・・・」
「香料もつければいい、そんなものではない」
「種類がメチャクチャだ、顔につける化粧品の香り、着物に染みた香りが、混在して」

それでも必死に耐え、大きめの部屋に入ると、政治家とその秘書だろうか、20人程度が一斉に頭を下げる。
麗が大旦那の後に続き、上座、中央の席に座ると、列をなして政治家たちは名刺を持ち、大旦那と麗の前に。
名刺を受け取るのは、やはり麗。
政治家たちの顔と名刺を、一人一人確認、「麗です」と、少し頭を下げる。
ただ、そんな動きのついでに、部屋の後ろに控える秘書連中にも目を向ける。

「まあ、あまり表情を出している秘書もいないけれど」
それでも、迎えの車に乗り込んできた浜村秘書を発見。
そして、また気に入らない。
「なんだ、あいつ・・・薄ら笑いか?」
「さっきと全然違う・・・あれは小馬鹿にしたような笑い」
「口元がゆがんでいる」

そんな初対面が終わり、大旦那が全員に話始める。
「お前たちの要望通り、麗を連れて来た」
「ただ、長居はしない」
「麗は、この後用事がある」

少しザワザワとなる政治家たちを、大旦那が手で制した。
「お前たちの今期の任期は、まあ、仕方ない」
「途中で降ろすなんてことは、しない」

政治家や秘書の顔に不安が走る。

大旦那は続けた。
「麗は18歳の都内の大学生や」
「ただ、わしが見ても、判断力、構想力、人を見る目は、ずば抜けとる」
「それも、厳しい、深い、甘くはない」
「それも、おいおい、わかるはずや」

そんな大旦那の厳しめの言葉にも関わらず、浜村秘書は、薄ら笑いを続けている。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み