第233話麗と直美は神保町デート(2)九条大旦那と奈々子

文字数 1,316文字

直美の神保町理解は速かった。
「麗様、ほんま、すごい街です」
「ありとあらゆる本が・・・いくらでも手に入る」
「最初は、料理の本をと思いましたけど・・・とてもとても・・・」
「しかも、これだけ店が並んでいると・・・圧倒されます」

麗は、その直美の反応をうれしく思う。
「この街の価値は、本の聖地という以上に、文化の聖地」
「理解してくれて、うれしい」
「やはり、京都のしっかりとした家に育っていて、文化の価値がわかる」
田舎の高校生たちを思い出す。
「話題は、ゲームとアニメ、食べ物、誰と誰が恋仲とかフラれたとか、そんなものだけ」
「漱石を休み時間に読んでいる時でも・・・変人扱いされて」
「漱石と、漢字で書けない連中に」

麗と直美は、主に古本屋の中で、様々な本を探す。

直美は、目が輝いている。
「まずは、料理の本なので、きれいに写真が入って、解説もついているほうが」
「あ、こちらに、すごく並んでいて・・・」
「へえ・・・フランス料理、スペイン料理・・・チョコレートも面白そうです」
「これは、点心?うーん・・・中華にも挑戦するかなあ」

麗は同じ棚から、古代ローマ遺跡の写真集を取り出す。
少し見ていると、直美も覗き込む。
「麗様、古代ローマがお好きなんですね」
麗は、素直に答える。
「一度、旅行したいなあとは思っています」
「イスタンブールも含めて」
直美は、少し寂しそうな顔。
「麗様と、その時は離れ離れに」
麗は、首を横に振って否定。
「いや、その時は、九条家で旅行しようかなと、団体旅行で」
「名目は、海外視察研修に」
直美の顔は、また輝いている。


麗と直美が、神保町を歩いている時間、京都九条家の大旦那は、かつての麗の母奈々子から、お礼の電話を受けていた。

奈々子
「本当にありがとうございます」
「何から何まで、気配りをいただいて」
大旦那
「いや、麗から、奈々子と蘭の引っ越しのお礼を言われてな」
「感謝すべきは、麗に対してや」
「わしは、麗の気持に応えただけや」

奈々子は、その大旦那の言葉の裏に、厳しいものを感じる。
今は犯罪者となった夫の宗雄の暴言と暴力から、麗を守ることができなかったこと。
それは、兄の晃からも、大旦那の耳に入っているはず。
どれほど、情けないと、思われていたのか、恐ろしく思う。
しかし、そんな自分に対して、転居先まで世話をして、しかも高額な引っ越し資金まで渡してくれるなど、ただただ、頭を下げるしかない。

奈々子の声が湿った。
「ほんま・・・ありがたいことで」
とても、それ以上は言えない。

大旦那の声が、予想通り、厳しくなった。
「麗は九条家の立派な後継や、わかるな」
「もうすでに、京の街は、心待ちにしとる」

奈々子は、驚いて、言葉を返せない。
まさか、大旦那の口から、そこまでの評価がされるとは、思っていなかった。
頭の良さは認めたけれど、気難しいだけの麗としか思っていなかったから。

大旦那は、黙ってしまった奈々子に、厳しく言い渡した。
「当面は、麗のアパートに住まわせるけど」
奈々子は「はい・・・」と、震えて次のお言葉を待つ。

大旦那の声が、低く厳しいものになった。
「近くに住むからといって、麗の邪魔になるようなことは、許さん」

奈々子の身体は、その声と言葉の厳しさに、固まっている。
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