第１３７話麗は車中で財団での仕事の説明を受ける。

久我山のアパートから品川駅、品川駅から京都までの車内では、麗の財団における仕事の話になった。
細かい話もあるので、茜が説明をする。

茜
「主に、大旦那様のスピーチ原稿の立案とか添削」
「テーマについては源氏が多いかな」
「他には、主に麗ちゃんが詳しい日本の古典」
「といっても、徒然草ぐらいまで」
「月に・・・１、２回、３０分くらいのスピーチくらいかな」
麗
「原稿のやり取りはメールで？」
茜
「そうやね、麗ちゃんが東京にいる時は、メールやね」
「京都におる時は、手渡しに」

麗は一つ一つメモを取る。

茜
「麗ちゃん、字がきれいやな、相変わらず」
「書道の先生はどうや？」
麗は、首を横に振る。
「正座が苦手なので」

その麗に大旦那。
「茶も教える、そんなんじゃ困る」

麗は仕方がない、「はい」と頷くのみ。

茜
「それと、ブログも出来たら」
麗
「テーマは？」
茜
「何でもいいけど、京都に関係のあるもの」
麗は少し考えた。
「そうなると書きたいものがあります」

目を閉じていた大旦那が麗を見た。

麗
「式子内親王様の和歌の訳と解説みたいなものを」
茜はうれしそうな顔。
「へえ・・・人気出るな、彼女、うちも大好きや」
大旦那は麗の手を握った。
「面白いなあ、麗、是非書いて欲しいな」
「あんな美しい歌人はおらん」

麗
「下鴨神社、上賀茂神社、七の社、つまり賀茂斎院跡も尋ねてみたくて」
茜
「うちも行きたいなあ」
麗は、少し困った顔。
「できれば、一人で式子内親王様の御霊を感じたくて」
つまり「お断り」の意思を示す。

大旦那が笑う。
「茜をふってしもうた」

茜は、麗を軽くにらむ。
「ほんまや、ふられた、さっきは桃香ちゃんをふって、今度はうちがふられた」
「桃香ちゃんが言っとったよ、冷酷って」
「桃香ちゃんの前に、美里ちゃんにも知らんぷり？」

麗は落ち着いて、茜に対する。
「女性の話ではありません」
「神社と温泉は、一人で行ったほうがいい」
「その人個人の心が神の御霊と触れ合うと思うんです」
「温泉に沈む時間も、全て人により、体調により違うはず」
「そんなことからの答えです」

茜は麗の腕を組んだ。
「ますます面白い、麗ちゃん、離したくない」
麗はまた、困惑が始まっている。