第354話涼香は、ますます麗に

文字数 1,376文字

当日の全ての講義が終わり、麗は高輪の家に直帰した。
葵が少々残念そうな顔になるけれど、一々付き合っているわけにはいかない。
それと、お世話係の涼香も、都内初日であることも配慮する。
「京の名家のお嬢様だ、見知らぬ都内で、急に一人になって寂しいのではないか」

そんな配慮を胸に秘め、麗が帰宅すると、案の定、涼香が飛び出して来た。
「麗様、お疲れさまでした」
麗は、その涼香を軽く抱く。
「都内初日で寂しかったでしょう」
涼香は麗をしっかりと抱く。
「いえ、もう大丈夫です、麗様がお戻りです」

その後は、リビングに入って、定例の予定確認など。
麗からは、水曜日に蘭を連れて、高橋麻央と日向先生にお礼をするくらい。

涼香からは、麗に対しての面談申込の話だった。
「茜様を通じてのお話です」
「土曜日に、銀行の直美さんが、お逢いしてお話をしたいと」

麗は、涼香に確認する。
「直美さんは、特定の目的とか、話題を申し出ているのでしょうか」

涼香は、首を横に振る。
「いえ、特にそれは、ありません」
「茜様は、クスクスと含み笑いで」

麗には断る理由はない。
「わかりました、お昼過ぎにでも」と承諾の意を伝える。
おそらく、詩織が麗と個人的に面談をした話を、詩織本人が言ったのかもしれない。
それに不安を抱いた直美も、負けまいと、面談を申し込んだと予想した。

涼香は早速、茜に連絡を取り、再び麗に向き合う。
「それ以外は、麗様の九条財団のブログが、すごい人気で」
「うちも、読ませていただきました」
「葵祭への式子内親王様の思いが、鮮烈で、また神々しくて、お美しい文で」
「もう、何度も読み返して、感動しております」

麗は、それでも表情を変えない。
むしろ、困惑している。
「そこまで感動されると、次が難しくなります」
「評判になったのは、葵祭の後だったからでしょう」

そんな麗を見ながら、涼香は思った。
「ほんま、スキを見せないお人や」
「同じお世話係の西洋料理の直美さんと経理の佳子さんも言っとったけど」
「ただ、一旦信頼を受けると、本当にやさしいとか」
「固いチョコレートの中に、純度の高いトロリとした極上の美味がとか」
「一度味わうと・・・天国とかお花畑とか」
「それと、親身に将来までお世話してくれるとか」
「はぁ・・・でも、お顔がおきれいで、可愛い」
「あの蘭ちゃんへの憎まれ口も、面白かった」
「うちも、あんな感じに・・・難しいやろか、まだまだ」

さて、麗は、そんな涼香の思いなどは、知る由もない。
あっさりと話題を変えてしまった。
「西洋史専門、外国にも詳しい涼香さんに聞くのも、どうかなとは思うけれど」

涼香は、思わず「はい?何でしょう」と目を丸くして聞き返す。

その麗の聞きたいことは、涼香には予想外のことだった。
「銀行の直美さんと話をするから、とのこともあるけれど」
「京都の、特に土産物屋さんで売っている商品が気になっていて」

これには、涼香も身を乗り出した。
実は、涼香も気になっていたことらしい。

「麗様・・・お気づきだったのですか?」
「うちも・・・それは・・・」
「もちろん、全てが全てではないですが」
「しょうもない程度の低い商品を、京都のシールを貼って、高値で売るとか」
「まっとうな店が嘆いとるとか」
「うちも、外国人に知り合いもあります、もう、京都人として、日本人として、恥ずかしゅうて」

涼香の話は止まらない、麗は聞くばかりになっている。
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