第241話全てに歓迎される麗 しかし麗は慎重

文字数 1,306文字

茜が大旦那を補足する。
「何といっても、九条家の後継や」
「それにふさわしい屋敷に住むのが、当たり前や」
五月は、麗の顔を慎重に見る。
「麗ちゃん、どうしても、あのアパートに思い入れはある?」

麗は、そう聞かれると、「いや、別にありません」と、答えるしかない。
かつての「母」奈々子と蘭が、同じアパートに住むのも、九条家に入った以上は、少々気まずい。
顔を合わせても、どんな顔をしていいのか、わからない。

大旦那が話をまとめた。
「午後の早くには、不動産の麻友も来る」
「それと相談して、日取りやら細かなことを」

茜が、笑顔になった。
「何やら新しくて広い屋敷みたいや」
「うちも泊まりに行きたい」

あっさりと決まってしまった麗の転居話の後は、九条財団の今後の話になった。

大旦那
「麗の言う通りや、もっと、九条の歴史と結束を活かすべきや」
「その意味で、二つの香料店をグループに取り込み」
「九条香料店として、再出発」
「もっと深みのある、香の文化を広める」
「京都の晃の香料店にしろ、鎌倉の瞳の香料店にしろ、優良企業や」
「儲けはしっかりある」
「ただ、将来は、不安もある」
「近ごろの安っぽいフレグランスとやらに押されて、衰退も考えられる」
「それなら、九条家の中で、元気なうちに協力し合って、より良い商売をする」

大旦那の珍しく長い話を受けて、五月も続く。
「銀行にも、相談しました」
「全く問題ないとか、そのほうが確かやと」
「それと系列の学園からも、香料研究参加の申し出もございました」

茜は、料理店に話題を変えた。
「麗ちゃんが言った、食文化も発信をとの話で、吉祥寺の香苗さんの料亭、京都の料亭も含めて、系列にして、互いの交流と研鑽を図る、もちろん情勢に応じて料理人を派遣し合う」
「これも、誰も損する人がいなくて、安全性と技術の向上が期待できる」

五月が麗の顔を、うっとりと見る。
「経費の有効活用やね、無駄を省き、健全で有益な方向に投資する」
「目からうろこや、ますます気合が入る」

麗からは追加で二点の、申し出。
「高橋先生の次女を、カメラマンとして九条文化財団に採用したい」
「お世話係の直美には、将来作りたい、京風洋食店のスタッフとして参画させたい」

その申し出は、誰からも賛成された。
大旦那
「ああ、ええことや、お世話になった人を大切にせんとあかん」
「直美の件も、全く問題なし」
「お世話係を上手にして、いい話になると、お世話係も、ますます気合が入る」
五月は、三井芳香の情報も知っていた。
「麗ちゃんが、変な女に付け狙われた時に、かくまってくれた人やろ?」
「しかも高橋先生の娘さん、当たり前や、是非にでも迎えたい」
茜は麗の手を握る。
「面白いなあ、考えることが」
「ほぼ、一週間で、これほど九条家を変えてしもうた」
「それも、全部、うれしい方向に」

申し出が、喜んで認められ、落ち着いた麗に大旦那。
「九条財団の九段の高橋から、担当理事にとの話があった」
「わしは、問題ないと思うが」

麗は、少し考えて、答えた。
「確かに魅力のある仕事です」
「ただ、もう少し財務諸表等を見て、確認したいことがあります」
「僕の勉強不足で済めばいいけれど」

その麗の答えで、大旦那の目がキラリと光っている。
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