第13話三井芳香に車中で身体を寄せられ、麗は身体をずらす。

文字数 1,314文字

少し酔い潰れていた三井芳香がようやく口を開いた。
「麗君、ごめんなさい、飲み過ぎちゃった」
女将がサッと冷水を口に含ませる。
「お加減はいかがですか?もう少し休まれても」
三井芳香は、首を横に振り起き上がろうとする。
麗が、その動きを助け、三井芳香はようやく立ち上がる。

女将がホッとした顔。
「ご無理はなさらないで」
「私どもの店でお送りいたしますので」

麗も三井芳香に声をかける。
「三井さん、あせらなくても大丈夫です」

三井芳香は、恥ずかしそうな顔。
少し冷水を飲んで回復したようだ。
「麗君が注ぎ上手なので、ついつい飲めない酒を」

麗はまた焦るけれど、送りの運転手の桃香に目で合図。
桃香もすぐに頷いて個室を出たので、麗は三井芳香の手を引く。
「お送りしますので、お車まで」

三井芳香は麗に手をつながれて赤い顔になるけれど、「ありがとう」と小声、玄関まで一緒に歩き、麗と店の前に停められていたアウディに乗り込む。

運転手の桃香が「お送りします」と言いながら、アウディを発進させると、三井芳香は麗に少し身体を寄せる。
「麗君、助かる」

しかし、麗は、身体を少しずらす。
「いえ、当然のことで」
「お家でゆっくり休まれてください」

三井芳香は、少し寂しげな声。
「呆れた?」
「酔って醜態しちゃった」

麗は、答えに困った。
「いえ、誰でも、無意識に予期せぬことはあるかもしれません」
「と言うよりは、僕があまりにも、至らなくて」
「反省するべきは、僕のほうです」
注いで欲しいような顔をしたから、注いだだけ、飲めなければ飲まなければいいのに、と思うけれど、とにかく初対面の三井芳香、運転席では幼馴染みの桃香が聞いていると思うので、言葉は慎重になる。

しかし、三井芳香は、また身体を寄せてくる。
「じゃあ、どうして、避けるの?」
「酒臭いから?嫌なの?私が・・・」

麗は、また答えに困った。
「この人、絡み酒?」と思うけれど、恐ろしくて、とてもそんなことは言えない。
「いや、そういうことではなくて、あまり女性と接したことがなくて、どう対応していいのか、わからなくて」
三井芳香は、また絡む。
「じゃあ、どうして女性に接したことのない坊やが、源氏の解釈が上手なの?」
「ありえないじゃない、そんなの」

麗は運転席で、桃香が吹き出しそうになっているのを見るけれど、下手に援軍を求めて、京都関連の話題になっても、より困ると思うので、必死に返し言葉を考える。

ただ、そんな麗の困惑の時間も、すぐに終わった。
吉祥寺と久我山の距離は、多少信号停車したとしても、夜なら10分もかからない。
おまけに、桃香が絶妙な助け船をだしてくれた。

「三井様、そろそろ久我山一丁目でございます」
「どのあたりでしょうか」
麗に対してはともかく、お店の人の桃香には、三井芳香は絡むことなどしない。
「はい、本当にありがとうございます。そこの標識のところで」

アウディが、その標識のところで停車すると、スンナリ三井芳香は、降りた。
やはりまだ酔い疲れのような顔をしているけれど、
「運転手さん、ありがとうございます。女将にもよろしくお伝えください」
「それから麗君、また明日、研究室に来てね、待っている」
と、だけ言って、少しふらつき気味に、姿を消していく。
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