第295話麗はいつもの塩対応 奈々子は無表情から激しく泣き出す。

文字数 1,273文字

麗と麻友が大学に到着、住所変更手続きを行っていると、九条財団の葵が姿を見せた。

葵は麗に頭を下げる。
「麗様、先日の葵祭はお疲れさまでした」
「それから石仏調査などのお話も素晴らしく」

麗は、いつもの無表情、少し頷くだけ。

麻友も葵に声をかける。
「今日は麗様の高輪への住所変更」
「それから、葵様も久我山への住所変更ですね」

葵は、複雑な表情。
「はい、すれ違いになってしまいました」
「先ほど、花園家の美幸様にもお逢いして」

麗は、ここでも無表情を続け、余計なことを言わないようにと考える。
蘭はともかく、奈々子の話題になると、財団のお嬢様に不必要な心配を招きかねない。
それでも、最低限のことは言う。
「葵様も落ち着きましたら、高輪の家に」

葵の顔が少しだけ晴れる。
「ありがとうございます、それは楽しみです」
「必ずお伺いいたします」

麻友は笑顔で、葵の手を握る。
「高輪の家にはピアノを買いました」
「それから、先ほど新幹線の中で、横浜歩きの話が」
「花園家の美幸さんも、佳子さんも参加したいとか」

葵の顔は、ますます晴れた。
「麗様、楽しみなことばかりです」

それでも麗は表情を変えない。
ゆっくりと周囲を見て、麻友と葵に声をかける。
「ここで話が長くなって、他の学生の邪魔になっても困ります」
「それに、そろそろフランス文学史の講義の時間、葵様も同じ講義ですね」

そう言われては、葵も麻友も仕方がなかった。
葵は麗と一緒に講義に出向き、麻友は、再び高輪の家に戻り、引っ越しの手伝いを再開することになった。


さて、久我山のアパートにて、奈々子への対応に苦しむ美幸に、吉祥寺の香苗が電話をかけてきた。
香苗
「美幸様、本当に申し訳ありません」
「大旦那様の御意向と申しましても、それは、お辛いことと」
「私も、奈々子の様子を見たくて、いかがでしょうか、お伺いしても」

美幸は、少しためらう。
「いえ・・・これは私が大旦那様の御意向を受けてのことで」
「麗様にも頭を下げられまして、私の大切な仕事で」
「それに、香苗さんは、お店もありますでしょうし」

それでも、美幸は奈々子の顔を見て、香苗の申し出を受けることにした。
「はい、もしかすると、奈々子様も、香苗様のお顔を見たほうが」
「それと、二人の対面と、その後の奈々子さんの変化も見ることができれば」

香苗が、アパートに入って来たのは、その電話の10分後だった。
桃香も一緒に入って来たので、運転は桃香。
香苗は、おそらく車の中で、電話をかけてきたようだ。

香苗と桃香は、美幸に深く頭を下げながら「お店は休みにします」と告げ、ボンヤリと座るだけの奈々子の前に立つ。
そして、声をかけた。

香苗
「奈々子、香苗だよ、どう?引っ越しは」
桃香
「奈々子おばさん、桃だよ」

しかし、奈々子は、ほとんど反応がない。
「ああ、香苗ちゃん、桃ちゃん?お久しぶり」
「今度・・・蘭とこっちに」
ゆっくり、もたつくような話し方。

そして、少し焦れた香苗と桃香に、涙ぐむ。
「大旦那様に・・・叱られて・・・」
「麗様に近づくな、邪魔するなって言われて・・・」
奈々子は、そのまま、顔を手で隠し、激しく泣き出してしまった。
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