第124話九条様との面会(4)

文字数 1,106文字

大旦那の顔は厳しいまま。
「お前も知っておると思うが」

「はい」

大旦那
「恵理と、お前を預けた宗雄がイタリアのフィレンツェで逮捕や」
「麻薬所持や、いつ帰って来られるかわからん」
「それ以外にも、あの二人・・・昔から何しとるか、わからん」

麗は、答えにためらいがある。
「・・・はい・・・」
そんな簡単に、恵理にしろ「父」にしろ、犯罪者と言われて頷けるものではない。

そして、「それ以外にも、あの二人、昔から何しとるかわからん」の言葉に、麗自身、子供の頃から気にし続けていたことを、何故か突然思い出した。

「おそらく、あのことは、大旦那も茜さんも、母さんも蘭も、結も誰も知らない」
「どう考えても、気持ちが悪い、見てはならないような・・・おぞましいことだったけれど」
「そして・・・あの時に聞いた言葉の後・・・兼弘さんが・・・もしかして?」
「・・・やはり?」

ただ、麗はそれを考えるよりは、まず目の前の大旦那の言葉を聞かなければならない。

大旦那も、麗の表情の変化には気がつかない。
そのまま話を続ける。
「もうな、お前を宗雄には預けられん」
「犯罪者の家には預けられない」
「もちろん、泣くだけで人がいいだけの奈々子にも任せられん」

麗は、大旦那の言葉の意味が、まだわからない。
思い出した「気持ち悪くおぞましい秘事とその後」についての考えは、続けることは出来ないでいる。

大旦那は、はっきりと大きな声。
「麗は、九条の屋敷に戻る」
「わしの養子や。すでに弁護士と役所には話をつけてある」

「え・・・」
これも、麗が一番、聞きたくなかった言葉になる。
「まさか・・・京都に?」
「あの・・・嫌な記憶しかない京都に?」

茜が言っていた「姉と弟」の意味も、ここで理解する。
しかし、その前からの大混乱やら、嫌気やらで、麗は全く返事が出来ない。

大旦那は柔らかな顔に戻った。
「まずは養子縁組や」
「九条麗になるんや」
「住む家は、わしと五月、茜と同じでもええし」
「恵理と結の家も取り壊して、新しく今風の屋敷を立てても構わん」

「その後は、九条家の後継として、様々に仕事を覚え」
「街衆にも顔見世や」
「もちろん、嫁も早く取らせる」
「子をたくさんな」
「孫の孫を見たいな、たくさん」

大旦那は、ここで一呼吸。
麗の顔を見る

茜は、うれしそうに麗を見ているだけ。

麗は、ようやく珈琲を一口。
身体全体がガクガクするけれど、口を開いた。

「突然、聞いた話ばかりで」
「頭が混乱するばかりで」
「何を、どうしたらいいのか」
「こちらの大学も、通い始めたばかりで」

大旦那は、顔が赤くなったり蒼くなったりする麗の手を、ゆっくりと握った。
「心配はあらへん、まずは養子縁組や」
茜は、麗と大旦那の手の上に、その手を重ねた。
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