第29話九条家の次女茜から早速電話が入る。

文字数 1,374文字

少しして麗は、それでも落ち着いて、コンビニで買った塩おにぎりと焼きおにぎりを食べる。
「俺なんて、こんなシンプルなおにぎりでいい」
「京都の母の本家も、九条様のお屋敷も、贅沢過ぎ」
「いつも食べきれない」
確かに塩おにぎりと焼きおにぎりから比べれば、どんな料理も贅沢過ぎになるけれど、麗はおにぎり二つで満腹となってしまった。

そして、風呂に入り、いろいろと考えだす。
「晃叔父さんがアドレスを教えたからといって、すぐではないだろう」
「とにかく礼を尽くす人、直接お屋敷に出向いて、頭を下げて和紙に包んだアドレスを渡すのでは」
「それにしても、大旦那と茜さんが何の用?」
「何の用と考える前に、そもそも俺に何ができる?」
「源氏とか香料とか、そんな話なのか」
「晃叔父では対応ができないのか」
「いとこの隆兄さんは・・・入院中かなあ、それで俺に話が回って来たのかな」
「若い人が必要なだけかな」
「でも、その若い人が必要な用事って何だ?力仕事?俺には向かないはず」

いろいろ考えたところで、実際は先方の話を聞かないことには、どうにもならない。
まずもって、晃叔父の話も、いつもの通り中途半端。
しかし、あのやさしく明るい声を裏切るわけにはいかない。
麗は、身体が温まったこともあり、風呂を出た。

「うん?」
風呂を出て、まだ汗が止まらない麗は、テーブルの上に置いたスマホが点滅していることを発見。
首を傾げて、スマホ画面を見ると、見知らぬ携帯アドレス。
麗は、通常、見知らぬ携帯アドレスと、固定電話でも名前を登録していない場合は、電話に出ない。

「また、シカトするかな、出ない方が無難」
「誰かの掛け間違いでは?」
実際、麗は見知らぬ人に掛け間違いをされ、「違います」と言ったら、逆切れされ、「うるせえ!」とまで怒鳴りつけられたことがある。
それもあって、見知らぬ電話番号への対応は実に慎重になる。

それでも、さっきの晃叔父の「教えてもいいか」に、OKを出した記憶が消えたわけではない。
「まあ、また怒鳴られるかもしれないし、茜さんかもしれない」と思い、慎重に電話に出る。
「はい、お待たせしました、麗です」

かけてきた相手は、九条家の令嬢、茜だった。
「麗ちゃん?茜、お久しぶり、声聞けてうれしいな」
「ごめんな、急に」
懐かしい茜の、しっとりとして優しい声。
一つ上の典型的な京美人、いつも麗には優しい。

麗は、すぐに電話に出なかったことを詫びる。
「申し訳ありません、お風呂に入って出たばかりで」
言う必要もないと思うけれど、やはり超名家九条家の令嬢には、正確に事情を話さねばと思う。

茜は、そんな麗に少し笑う。
「かまへん、うちが電話したかったんや」
「麗ちゃんと離れとるんや、目の前におらんもの、仕方ないやろ」

麗は少し落ち着く。
「はぁ・・・ありがたいことで」
いつもの月並みな麗の反応になる。

茜はまた笑う。
「なんや、もう・・・せっかく久々に声を聞いたのに、その地味な返事」
「麗ちゃんらしくていいけどな」

麗は、「このお姉さんも地味って言うの?」と思うけれど、やはり反発は不可能。
「いえいえ、どういたしまして」の、意味不明なリアクションとなる。

茜の声が、また弾む。
「それでな、麗ちゃん、京都の本家から電話があったと思うけどな」
「その段取りや、それを決めよ、大旦那が隣で待っとる」

麗は「うっ」と身体が硬直、スマホが実に重くなる。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み