四百十九話 流れ弾
文字数 1,774文字
「直治さァん、小夜さんとんでもないッスよ。都さんが大暴れしてこの山が平地になるかもしれないですニャ・・・」
「なんだ一体?」
「昨日『相談がある』と言われて小夜さんのお部屋でお話したんですけどォ、『美代様の子供を妊娠した』と言って陽性結果が出ている妊娠検査薬を見せてきたんですぅ」
「はあ!?」
「フリマアプリかなにかで買ったんじゃないッスかねェ・・・」
「売ってるのかそんなモン・・・」
「ちょいと調べてみたら、売ってました」
「ちょお、おま・・・。み、美代呼んできてくれ・・・」
「はァい!」
「あ、待て待て緊急会議だ! 淳蔵と桜子も呼んでこい!」
「はァいッ!!」
美代、淳蔵、桜子の順で事務室に来る。千代が事情を説明すると、淳蔵は都が激怒する想像をして気分が悪くなったのか青い顔になり、桜子はぽかんと呆け、美代は爆笑していた。
「おい美代、笑ってる場合か? というか声をおさえろ。都に知られたらまずいんだぞ?」
「ご、ごめっ、天才だよ彼女は! あはははははっ!」
「美代さァん、笑い事ではありませんよォ! 本当に山が平地になっちゃいますよォ」
「ごっ、ごめんごめん。うう・・・」
「美代様! 千代さんの仰る通り笑い事ではありませんよ!」
「ンフフッ、ごめんってば・・・。ふうー・・・。こんなに笑ったの生まれて初めてかも。あー、笑った笑った。面白いから放っておけばいいよ」
「流れ弾に当たって瀕死になってる淳蔵が可哀想だと思わないのかお前は」
「あー、それは、まあ・・・」
「『まあ』で済ませるな。お前は都が怒っても平気だし嫉妬で怒り狂ってもらえて嬉しいのかもしれねえが、俺達はたまったもんじゃないんだぞ」
「いや別に平気ってわけじゃないんだけど・・・」
こんこん。
ノックに背筋が凍る。
「ど、どうぞ!」
『失礼します』
倉橋だった。
「あら皆様お揃いで」
「なんだ倉橋」
「桜子さん、食事当番でしょう? お食事を作る時間を過ぎてもキッチンにいらっしゃいませんから、どうしたのかと探していたのです」
「すみません、すぐに食事を作ります」
空腹は怒りを増幅させる。それが食いしん坊なら猶更。桜子は慌てて事務室を出ていった。
「倉橋」
「はい」
「小夜からなにか聞いてるか?」
「小夜さんからですか? いいえ、なにも」
「うーん・・・」
「なにかあったのですか?」
「お前には関係ない。桜子を手伝え」
「失礼しました。では・・・」
倉橋も事務室を出ていく。
「美代、本当にどうするんだ」
「念のために聞く必要もないけどさ、まさか俺が都以外と寝たとは思ってないよね?」
「愚問だ」
「都だってそう思うだろうさ。だから怒り狂うとしたら小夜の小賢しさにだろうね。ただ『肉』として処理されて終わり、なんてことにはならないだろう。いいじゃないか、見守っていれば。都のこころを掻き乱すことがいけないことだとはわかっていても、同じくらい大切なことだとも思うんだよ、俺は。わざと過剰に怒らせて普段溜まってるストレスも発散させればいいよ。じゃ、俺は桜子君を手伝ってくるから」
「おい待てよ!」
美代は俺の制止も聞かずに行ってしまった。残ったのは俺と、吐きそうになっている淳蔵と、なにか考えている時に頬を人差し指でぽりぽりと掻く癖のある千代。
「・・・はあ」
俺は溜息を吐いた。
「どうしますぅ?」
「正直なところ、なんにも思い浮かばねえ」
下手に動いて俺のせいになったら嫌だ、という気持ちもある。
「悪い、俺・・・」
吐き気を耐えきれなくなったらしい。いつもは優雅に振舞っている淳蔵がドタバタと音を立てて事務室を出ていった。
「こう言ってはニャンですが、淳蔵さん可哀想ですねェ。都さんが怒るポイントを熟知しているから滅多に怒らせないのに、よく流れ弾に当たって真っ青になってますニャ」
「流石の観察眼だな。その通り」
「お褒めに預かり光栄ですぅ! しかし不思議ですよねェ、淳蔵さんって元『半グレ』ですよね? それも超が付く武闘派ァ! なのに、都さんに怒られると真っ青になって吐いてしまうんですから・・・」
「まあ、淳蔵にも色々あるんだろ」
「ですねェ。さて、小夜さんですが、もう少し様子を見ますか?」
「だな」
「では私はかわらず小夜さんの相談役に徹しますニャ!」
「頼む」
「桜子さんのお手伝いに行ってきます! 失礼しまァす!」
事務室で一人になる。これからのことを思うと頭が痛くなった。
「なんだ一体?」
「昨日『相談がある』と言われて小夜さんのお部屋でお話したんですけどォ、『美代様の子供を妊娠した』と言って陽性結果が出ている妊娠検査薬を見せてきたんですぅ」
「はあ!?」
「フリマアプリかなにかで買ったんじゃないッスかねェ・・・」
「売ってるのかそんなモン・・・」
「ちょいと調べてみたら、売ってました」
「ちょお、おま・・・。み、美代呼んできてくれ・・・」
「はァい!」
「あ、待て待て緊急会議だ! 淳蔵と桜子も呼んでこい!」
「はァいッ!!」
美代、淳蔵、桜子の順で事務室に来る。千代が事情を説明すると、淳蔵は都が激怒する想像をして気分が悪くなったのか青い顔になり、桜子はぽかんと呆け、美代は爆笑していた。
「おい美代、笑ってる場合か? というか声をおさえろ。都に知られたらまずいんだぞ?」
「ご、ごめっ、天才だよ彼女は! あはははははっ!」
「美代さァん、笑い事ではありませんよォ! 本当に山が平地になっちゃいますよォ」
「ごっ、ごめんごめん。うう・・・」
「美代様! 千代さんの仰る通り笑い事ではありませんよ!」
「ンフフッ、ごめんってば・・・。ふうー・・・。こんなに笑ったの生まれて初めてかも。あー、笑った笑った。面白いから放っておけばいいよ」
「流れ弾に当たって瀕死になってる淳蔵が可哀想だと思わないのかお前は」
「あー、それは、まあ・・・」
「『まあ』で済ませるな。お前は都が怒っても平気だし嫉妬で怒り狂ってもらえて嬉しいのかもしれねえが、俺達はたまったもんじゃないんだぞ」
「いや別に平気ってわけじゃないんだけど・・・」
こんこん。
ノックに背筋が凍る。
「ど、どうぞ!」
『失礼します』
倉橋だった。
「あら皆様お揃いで」
「なんだ倉橋」
「桜子さん、食事当番でしょう? お食事を作る時間を過ぎてもキッチンにいらっしゃいませんから、どうしたのかと探していたのです」
「すみません、すぐに食事を作ります」
空腹は怒りを増幅させる。それが食いしん坊なら猶更。桜子は慌てて事務室を出ていった。
「倉橋」
「はい」
「小夜からなにか聞いてるか?」
「小夜さんからですか? いいえ、なにも」
「うーん・・・」
「なにかあったのですか?」
「お前には関係ない。桜子を手伝え」
「失礼しました。では・・・」
倉橋も事務室を出ていく。
「美代、本当にどうするんだ」
「念のために聞く必要もないけどさ、まさか俺が都以外と寝たとは思ってないよね?」
「愚問だ」
「都だってそう思うだろうさ。だから怒り狂うとしたら小夜の小賢しさにだろうね。ただ『肉』として処理されて終わり、なんてことにはならないだろう。いいじゃないか、見守っていれば。都のこころを掻き乱すことがいけないことだとはわかっていても、同じくらい大切なことだとも思うんだよ、俺は。わざと過剰に怒らせて普段溜まってるストレスも発散させればいいよ。じゃ、俺は桜子君を手伝ってくるから」
「おい待てよ!」
美代は俺の制止も聞かずに行ってしまった。残ったのは俺と、吐きそうになっている淳蔵と、なにか考えている時に頬を人差し指でぽりぽりと掻く癖のある千代。
「・・・はあ」
俺は溜息を吐いた。
「どうしますぅ?」
「正直なところ、なんにも思い浮かばねえ」
下手に動いて俺のせいになったら嫌だ、という気持ちもある。
「悪い、俺・・・」
吐き気を耐えきれなくなったらしい。いつもは優雅に振舞っている淳蔵がドタバタと音を立てて事務室を出ていった。
「こう言ってはニャンですが、淳蔵さん可哀想ですねェ。都さんが怒るポイントを熟知しているから滅多に怒らせないのに、よく流れ弾に当たって真っ青になってますニャ」
「流石の観察眼だな。その通り」
「お褒めに預かり光栄ですぅ! しかし不思議ですよねェ、淳蔵さんって元『半グレ』ですよね? それも超が付く武闘派ァ! なのに、都さんに怒られると真っ青になって吐いてしまうんですから・・・」
「まあ、淳蔵にも色々あるんだろ」
「ですねェ。さて、小夜さんですが、もう少し様子を見ますか?」
「だな」
「では私はかわらず小夜さんの相談役に徹しますニャ!」
「頼む」
「桜子さんのお手伝いに行ってきます! 失礼しまァす!」
事務室で一人になる。これからのことを思うと頭が痛くなった。