三十八話 調教済み

文字数 1,723文字

あと一週間で十五歳。


「ねー、美代。一人暮らしって楽しかった?」

「死ぬほど寂しくて毎晩都に電話かけてた」

「そ、そう・・・。じゃあ大学は? 楽しかった?」

「いや? 俺、友達作らなかったし」

「そう・・・」

「無駄口叩いてる暇があるなら問題解きな」


美代はどうしても雅への嫌悪感がおさえきれないらしく、態度に棘がある。


「直治様ァ!」

「うおっ」


吃驚して振り返ると、いつも上機嫌な千代が立っていた。


「ジャスミンが泥だらけの骨のガムを食べていたんですけど、取り上げた方がよかったでしょうか?」

「ああ、穴に埋めてたヤツだろうから、問題ない」

「はい!」

「お、お前なんでいつもそんなに声張ってるんだ? ちゃんと聞こえてるぞ」

「えぇ!? いつもこんな感じなので、うるさかったらすみません・・・」


談話室が見える廊下から美代達を覗き見していたのがバッチリバレてしまった。


「千代ー、助けてー」


雅がべちゃっと伏せて言う。


「た、助けて!?」


美代が吃驚する。勉強を教えてやってるのに助けを求められたらそりゃ心外だろう。


「難しくてわかんないぃ・・・」

「雅さん、ファイトッ!」


千代は絞めるには、少し惜しくなってきた。雅の心の拠り所だからだ。都も気に入っている。


「・・・でね? 言ってやったのよ。そんなのおじさんが許さないぞ! って」

「馬鹿じゃねえの・・・」


都と淳蔵が階段を降りてきた。淳蔵はのぼせている。そういうことをしていたんだろう。


「あら、皆さんお揃いで」

「都様! 今日もお美しいです!」

「ありがとう、若返るわぁ」


そういえば都は一体幾つなんだろう。俺自身も何歳になったのか数えるのが面倒臭くなってきた。


「雅さん、勉強頑張ってる?」

「はい!」

「じゃ、ご褒美欲しいよね?」


雅はぽけっと呆ける。


「あと一週間でお誕生日でしょう? 丁度お客様のご予約もないし、夕飯は好きな物にしてあげるわよ。ケーキも食べたいかな?」

「え、あ、えっと」


前から思っていたが、返事が遅い。美代が苛ついている。淳蔵が談話室に入って、俺達にしかわからないような動作でつらそうに座ると、何事も無かったかのように前髪を搔き上げる。それを見て美代が更に苛ついていた。


「外食したいならそれでもいいし、お友達と遊びに行きたいなら遊んできてもいいわよ?」

「雅さん! チャンスですよ! 年に一回のチャンスです!」

「じゃあ、私、美代が作ってくれた明太子のクリームパスタが食べたい。あと、チョコレートのケーキも・・・」

「美代、作ってあげてね。ケーキは淳蔵に頼んでいい?」

「わかった」

「んー・・・」


俺でも苛つくような甘ったるい声を淳蔵があげたので、美代が我慢できなかったのか思いっきり睨んでいた。


「淳蔵様、体調悪いんですか?」

「頭痛・・・」

「お薬取ってきますねェ!」


千代がぱたぱたと去っていった。


「直治、ちょっと」

「ん?」


談話室から見えない角度に押し込まれ、耳打ちされる。


「美代ね、わざと苛つかせてるの」

「なんで?」

「雅さん、年齢の割に幼いというか、甘ったるいと思わない?」

「ん、そうかもな・・・」


耳がくすぐったい。俺は自分がちょっと情けなくなって、話に集中する。


「時間があれば褒めて伸ばしてもいいんだけど、今回は時間がないから、スパルタ教育しようと思ってね。直治も適度にちょっかいかけてあげて」

「美代に殺されるな・・・」


俺が苦笑して頷くと、都は俺の肩をがしっと掴んで談話室からも見える角度に引き寄せ、胸の敏感なところをさらりと撫でた。


「うっ、」

「じゃあねー」


俺は慌てて口元をおさえてシャツを引っ張る。


「淳蔵様ァ! 粉薬しかありませんでしたァ!」

「あっそ」

「直治様? 直治様も顔赤いですよ」

「わ、悪いちょっと気分が、」

「あ、お薬、」

「要らねえ!」


俺はこの場所で得た社会的地位を失わないために、慌てて事務室に駆け込んで鍵をかけた。美代は怒りを通り越して無表情になっていた。本当に殺されかねない。それより、


「クソッ、都の馬鹿野郎・・・!」


不意に擦られただけでこんなに反応する身体になっているとは思っていなかった。


「ド変態じゃねえか! どいつもこいつも!」


下半身に良くないものが集まる。良くないとはわかっていても、仕事中に自慰せざるを得なかった。
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