二百九話 月夜の結婚式
文字数 2,763文字
「驚きましたよ」
疲労でくたくたに煮込まれたような、無精髭を生やした小汚い男、イリスは、紅茶を飲みながら言った。
「取り引きに応じてくださるなんてね」
都はいつも座る上座ではなく、月の光がたっぷりと差し込む左手のソファーに座っている。対面に座っているイリスも、顔の造形がはっきりとわかる程、月の光を浴びていた。俺と美代と直治は都の後ろに立ち、イリスの後ろにはかなり緊張した様子の桜子と金鳳花が立っている。真理はジャスミンの力でぐっすり眠って楽しい夢を見ているだろう。
「盗むだなんて遠回りなことはせず、最初から話し合いを打診すれば、無償でお渡ししていたかもしれませんね」
「無礼な真似をして失礼しました。謝罪いたします。さて、人間の金持ちの間では、貴方は『極東の魔女』と呼ばれているそうですが、魔術をお使いになるのですか?」
「房中術を少々」
イリスは俺達を値踏みするように見た。
「成程、面白い。人心掌握に長けていると」
「貴方とは正反対」
「と、申しますと?」
「聞きましたよ。ホムンクルス達を恐怖で支配していると。悪魔の血を節約するために、用済みになったホムンクルスを生きたまま圧搾機にかけて『再利用』しているとか」
「既に高みに居る貴方には理解できないでしょう。人間が人間をやめる方法は二つ。幸運に恵まれるか、堕落するか。貴方のように幸運を掴めば一瞬だ。私のように堕落していくのは終わりがない」
イリスは昏い目をした。
「いくらでも酷いことができる。いくらでも自分勝手になれる。ずっと落ちていると、はて、自分は飛んでいたのではないかな、と錯覚し、また落ちる。一度落ちたら、神聖な者として君臨することはできず、底の底の底から引き摺り込むだけ・・・」
くぎぎ、と不愉快な笑い声をあげた。
「次にホムンクルスを造る時は、貴方に似せた顔にしよう」
俺達は都の後ろに立っているので、都の表情は窺えない。
「取り引きの話をしませんか?」
「ハハ、そうですね」
都が左手を上げると、直治が持っていた『全血製剤』の袋を都の左手に添えた。受け取った都は、テーブルの上に置く。イリスが瞳を輝かせた。酷く興奮している。
「すンばらしいっ・・・! 小国を買える程の金をつぎ込んでも、手に入らない貴重品だっ・・・!」
手を震わせながら、そっと、袋に近付ける。
「取り引きはまだ成立していませんよ」
「あ? あ、ああ、失礼」
イリスは手を引っ込めて笑い直した。
「ホムンクルスが欲しいんでしたね。既存のものでよければ二日後にはお渡しします。それとも新しく造りましょうか?」
「もう気に入った子が居ますの」
都が右手を持ち上げ、ぱちん、と指を鳴らした。視線を誘導するためによくやる手段だ。俺が瞬くと、視界の隅に白い変なものが映った。違和感を探るためにすぐに視線をそちらに向け、吃驚して固まってしまった。イリスが俺達の変化に気付いたのか、斜め後ろを見る。
桜子が、恥じらいながらも嬉しそうにそこに立っていた。服が、違う。セクシーな白いランジェリーに、ロンググローブ、ガーターベルト。白いハイヒール。そして、花嫁を連想させる神秘的なヴェールを身に纏っている。
「みやこさまぁ・・・」
雄の本能を刺激する雌の声だ。桜子は祈るように両手を胸の前で組みながら、ゆっくりと歩いて都に近付き、ソファーの前に立つ。イリスは口を大きく開け、瞳をぶるぶると揺らし、奇妙な呻きをあげながら桜子を見ていた。
「おいで」
「はい」
桜子が都の隣に座る。
「この子、可愛いから貰うわ」
ダンッ、とイリスが両の拳でテーブルを叩いた。
「だ、駄目だ・・・。駄目だ駄目だ駄目だだめだだめだだめだだめだッ!! だめだああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!」
ビリビリと部屋に響く絶叫。金鳳花が泣きながら蹲り、ソファーの陰に消えた。
「駄目だッ!! それだけはッ!! それは私のモノだッ!!」
周りが見えなくなったのか、飛びかかろうとしたイリスの腹に、都がテーブルを蹴って押し込む。イリスはひっくり返った紅茶を盛大に浴び、ソファーにばふんと座り直すことになった。
「どうして駄目なの? さっき『既存のものでよければ』って言ったじゃないの」
「それっ・・・、だけは・・・!」
都が桜子の顎を掴んで動かし、様々な角度から桜子の顔を鑑賞する。
「この子だけ妙に『型番』が古いから、貴方のお気に入りなのかと思ったら、『当たり』だったみたいね」
ブラジャーの中に手を突っ込み、乳房を揉む。途端に桜子が甘い声を上げた。
「あっ、あぅ、は、恥ずかしいですみやこさまっ、み、見られているのに・・・」
「可哀想な桜子さん。満足に陽の光も浴びられないなんて」
乳首を抓むのが見えた。思わず視線を逸らしてしまう。
「やあっ、ああ! ち、乳首、こりこりしないでぇ・・・」
「もう少し食べた方が良いわね。胸も大きくなるわよ」
「ああ・・・、み、みやこさまに、もんでいただけるのなら・・・」
都が桜子を押し倒し、唇を吸う。
「ね? 女同士だから、どこがイイかわかるでしょ?」
「は、はい・・・」
「・・・んっ、あ」
都の甘い声。調教された身体が勝手に反応し始める。やばい。やめてくれ。都と桜子は唇を吸い合いながら、くぐもった嬌声を零し始める。舌が絡まるぬちぬちという水音が響いて、酷くいやらしい。
「ぎ、ぎざまああああああっ!!」
ふわっと意識が遠のいた。
窓とは名ばかりの換気口から差し込む、小さな陽だまりを愛おしそうに撫でる桜子。任務を遂行するために都会の喧騒に紛れる桜子。格闘訓練を受けた時に大きな乳房に痣ができてしまい、夜中、必死に痛みを堪える桜子。イリスの自慰行為を、ただ黙って見つめる桜子。
『281・・・。君は永遠に、私のモノだよ・・・』
『はい。ご主人様』
「みやこ、しゃまぁ・・・」
「ふぅ、ん」
二人が唇を放す。桜子が高く大きな嬌声を上げた。ぐちゅぐちゅという水音が響き、身悶える桜子の身体に都が身体を擦り付ける。イリスは何故か杭を打たれたようにテーブルを押し返せず、泣きながら歯を食いしばって二人を睨み付けていた。
「せ、折角頂いた下着を、ああっ! 汚して、しまいますぅ!」
「すぐに体型がかわって着られなくなるから、マネキンにでも着せて飾っておきなさい」
「そんなっ、ああぁああっ!」
「恥ずかしいところを見られるの、クセになるでしょ?」
「も、もっとぉ! もっと教えてくださいっ! この粗末な身体にっ、いやらしいこと教えてぇっ!」
ちら、と美代と直治を見ると、直治は限界ぎりぎりまでシャツを引っ張って視線を逸らしていた。美代は口元を手で覆いながらもソファー越しにじっくり観察している。どちらも顔が真っ赤だ。
「イキますっ!! イキますぅううぅ!!」
桜子が静かになり、数秒。充実感溢れた荒く甘い呼吸が響いた。
疲労でくたくたに煮込まれたような、無精髭を生やした小汚い男、イリスは、紅茶を飲みながら言った。
「取り引きに応じてくださるなんてね」
都はいつも座る上座ではなく、月の光がたっぷりと差し込む左手のソファーに座っている。対面に座っているイリスも、顔の造形がはっきりとわかる程、月の光を浴びていた。俺と美代と直治は都の後ろに立ち、イリスの後ろにはかなり緊張した様子の桜子と金鳳花が立っている。真理はジャスミンの力でぐっすり眠って楽しい夢を見ているだろう。
「盗むだなんて遠回りなことはせず、最初から話し合いを打診すれば、無償でお渡ししていたかもしれませんね」
「無礼な真似をして失礼しました。謝罪いたします。さて、人間の金持ちの間では、貴方は『極東の魔女』と呼ばれているそうですが、魔術をお使いになるのですか?」
「房中術を少々」
イリスは俺達を値踏みするように見た。
「成程、面白い。人心掌握に長けていると」
「貴方とは正反対」
「と、申しますと?」
「聞きましたよ。ホムンクルス達を恐怖で支配していると。悪魔の血を節約するために、用済みになったホムンクルスを生きたまま圧搾機にかけて『再利用』しているとか」
「既に高みに居る貴方には理解できないでしょう。人間が人間をやめる方法は二つ。幸運に恵まれるか、堕落するか。貴方のように幸運を掴めば一瞬だ。私のように堕落していくのは終わりがない」
イリスは昏い目をした。
「いくらでも酷いことができる。いくらでも自分勝手になれる。ずっと落ちていると、はて、自分は飛んでいたのではないかな、と錯覚し、また落ちる。一度落ちたら、神聖な者として君臨することはできず、底の底の底から引き摺り込むだけ・・・」
くぎぎ、と不愉快な笑い声をあげた。
「次にホムンクルスを造る時は、貴方に似せた顔にしよう」
俺達は都の後ろに立っているので、都の表情は窺えない。
「取り引きの話をしませんか?」
「ハハ、そうですね」
都が左手を上げると、直治が持っていた『全血製剤』の袋を都の左手に添えた。受け取った都は、テーブルの上に置く。イリスが瞳を輝かせた。酷く興奮している。
「すンばらしいっ・・・! 小国を買える程の金をつぎ込んでも、手に入らない貴重品だっ・・・!」
手を震わせながら、そっと、袋に近付ける。
「取り引きはまだ成立していませんよ」
「あ? あ、ああ、失礼」
イリスは手を引っ込めて笑い直した。
「ホムンクルスが欲しいんでしたね。既存のものでよければ二日後にはお渡しします。それとも新しく造りましょうか?」
「もう気に入った子が居ますの」
都が右手を持ち上げ、ぱちん、と指を鳴らした。視線を誘導するためによくやる手段だ。俺が瞬くと、視界の隅に白い変なものが映った。違和感を探るためにすぐに視線をそちらに向け、吃驚して固まってしまった。イリスが俺達の変化に気付いたのか、斜め後ろを見る。
桜子が、恥じらいながらも嬉しそうにそこに立っていた。服が、違う。セクシーな白いランジェリーに、ロンググローブ、ガーターベルト。白いハイヒール。そして、花嫁を連想させる神秘的なヴェールを身に纏っている。
「みやこさまぁ・・・」
雄の本能を刺激する雌の声だ。桜子は祈るように両手を胸の前で組みながら、ゆっくりと歩いて都に近付き、ソファーの前に立つ。イリスは口を大きく開け、瞳をぶるぶると揺らし、奇妙な呻きをあげながら桜子を見ていた。
「おいで」
「はい」
桜子が都の隣に座る。
「この子、可愛いから貰うわ」
ダンッ、とイリスが両の拳でテーブルを叩いた。
「だ、駄目だ・・・。駄目だ駄目だ駄目だだめだだめだだめだだめだッ!! だめだああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!!」
ビリビリと部屋に響く絶叫。金鳳花が泣きながら蹲り、ソファーの陰に消えた。
「駄目だッ!! それだけはッ!! それは私のモノだッ!!」
周りが見えなくなったのか、飛びかかろうとしたイリスの腹に、都がテーブルを蹴って押し込む。イリスはひっくり返った紅茶を盛大に浴び、ソファーにばふんと座り直すことになった。
「どうして駄目なの? さっき『既存のものでよければ』って言ったじゃないの」
「それっ・・・、だけは・・・!」
都が桜子の顎を掴んで動かし、様々な角度から桜子の顔を鑑賞する。
「この子だけ妙に『型番』が古いから、貴方のお気に入りなのかと思ったら、『当たり』だったみたいね」
ブラジャーの中に手を突っ込み、乳房を揉む。途端に桜子が甘い声を上げた。
「あっ、あぅ、は、恥ずかしいですみやこさまっ、み、見られているのに・・・」
「可哀想な桜子さん。満足に陽の光も浴びられないなんて」
乳首を抓むのが見えた。思わず視線を逸らしてしまう。
「やあっ、ああ! ち、乳首、こりこりしないでぇ・・・」
「もう少し食べた方が良いわね。胸も大きくなるわよ」
「ああ・・・、み、みやこさまに、もんでいただけるのなら・・・」
都が桜子を押し倒し、唇を吸う。
「ね? 女同士だから、どこがイイかわかるでしょ?」
「は、はい・・・」
「・・・んっ、あ」
都の甘い声。調教された身体が勝手に反応し始める。やばい。やめてくれ。都と桜子は唇を吸い合いながら、くぐもった嬌声を零し始める。舌が絡まるぬちぬちという水音が響いて、酷くいやらしい。
「ぎ、ぎざまああああああっ!!」
ふわっと意識が遠のいた。
窓とは名ばかりの換気口から差し込む、小さな陽だまりを愛おしそうに撫でる桜子。任務を遂行するために都会の喧騒に紛れる桜子。格闘訓練を受けた時に大きな乳房に痣ができてしまい、夜中、必死に痛みを堪える桜子。イリスの自慰行為を、ただ黙って見つめる桜子。
『281・・・。君は永遠に、私のモノだよ・・・』
『はい。ご主人様』
「みやこ、しゃまぁ・・・」
「ふぅ、ん」
二人が唇を放す。桜子が高く大きな嬌声を上げた。ぐちゅぐちゅという水音が響き、身悶える桜子の身体に都が身体を擦り付ける。イリスは何故か杭を打たれたようにテーブルを押し返せず、泣きながら歯を食いしばって二人を睨み付けていた。
「せ、折角頂いた下着を、ああっ! 汚して、しまいますぅ!」
「すぐに体型がかわって着られなくなるから、マネキンにでも着せて飾っておきなさい」
「そんなっ、ああぁああっ!」
「恥ずかしいところを見られるの、クセになるでしょ?」
「も、もっとぉ! もっと教えてくださいっ! この粗末な身体にっ、いやらしいこと教えてぇっ!」
ちら、と美代と直治を見ると、直治は限界ぎりぎりまでシャツを引っ張って視線を逸らしていた。美代は口元を手で覆いながらもソファー越しにじっくり観察している。どちらも顔が真っ赤だ。
「イキますっ!! イキますぅううぅ!!」
桜子が静かになり、数秒。充実感溢れた荒く甘い呼吸が響いた。