百七十八話 五分
文字数 2,351文字
淳蔵が都を抱き、美代は中畑の手を繋ぎ、俺は達磨屋を担ぎ、千代は車椅子を持って階段を降り、地下室に入った。中畑が俺達に隠れたつもりでコソコソやっている間に、俺達もこの日のために地下室の準備を整えている。
淳蔵が『特等席』に都を座らせ、護衛のために隣に座った。と、思ったら、都を包むように抱きしめて自分の髪を触らせ、にんまりと笑いながら都の顔中にキスしたり頬を擦りつけたりしている。
千代が車椅子を置いてドアに鍵をかけ、ドアの前に立って完全に退路を塞ぐと、微笑みを浮かべて中畑と手を繋いでいた美代が舌打ちし、汚物を触ってしまった時のような勢いで中畑の手を振り解き、黙って手を洗い始めた。中畑は意味の無い問いかけや謝罪をしながら、怯えてその場に立ち尽くしている。俺は床に敷いたブルーシートの上に達磨屋を大の字に寝かせ、服を脱がせた。
美代が冷蔵庫から『全血製剤』と冷えたグラスを取り出し、血をグラスに注ぐとストローを差して都の隣に座る。
「淳蔵、お前の死因を言い当ててやろうか?」
「爆発四散とか?」
「俺だよ」
美代は不敵に笑った。
「さ、都。一口でいいから飲んでね。飲んだらご褒美をあげるよ」
都は眉毛を八の字にした。車椅子生活の中で、俺に排泄、特に排便の世話をされることに物凄いストレスを感じて、ここ数日、幼女のように泣いて嫌がって食事を摂っていない。排便の世話をされることは、都が覚悟していた以上のストレスで、都はこれを割り切ることができなかった。
「都、全部飲め。栄養を摂らないとリハビリもできないぞ」
淳蔵と美代が俺を睨んだ。言い方に棘があるかもしれないが、承知の上だ。都はそっと、ストローを口に含んだ。ゆっくり、ゆっくりと、血を飲み干す。
「全部飲んだね。偉いよ」
「まずいー・・・」
「お口直ししないとね」
なんの『処理』もしていない血だ。飲めば力が漲るが、当然、不味い。美代はグラスを持ってソファーを立ち、シンクにグラスを置くと、『ご褒美』の用意を始めた。冷やしてある洒落たグラスに炭酸水とメロンシロップを注ぎ、マドラーで混ぜて、少し炭酸も抜く。そっと氷を浮かべ、バニラアイスをディッシャーで掬い、氷の上に乗せる。最後にサクランボの缶詰を開けてサクランボを一つ取り出し、バニラアイスの横に添えた。
メロンソーダフロート。
テーブルにコースターを置き、ソーダを乗せ、スプーンも添える。都は花が綻ぶように笑った。都の隣に座り直した美代が滲んだ涙を指で拭い、グラスを持ち上げてストローを抓み、都の口元に差し出す。都がストローを口に含み、ソーダを吸う。中畑が都の名前を呼びながら近付いてきたので、俺は弾き飛ばした。
「美味しい?」
「とっても・・・」
「残していいからね」
淳蔵が都の身体から腕を解き、立ち上がる。そして、達磨屋の頭上、ブルーシートの上に黒いトランクを置き、鍵を開けた。俺は中畑の首根っこを掴んで、達磨屋の開いた足の間に跪かせる。
「ごめンなざいぃ・・・! 許じでぐだざいぃ・・・!」
淳蔵がトランクの中から薬の入った瓶を取り出し、注射器の針を刺して薬を吸う。そして、人差し指でぴんっぴんっと弾いて空気を抜いた。中畑がガタガタと震えだす。
「なっ、なっ、なンでずがぞれぇっ!!」
「ん?」
『久しぶり』で集中していたのか、淳蔵が、ちら、と中畑を見たあと、爽やかに笑いながら振り返った。
「ああ、安心しろよ。俺、『プロ』だから」
「いやあああああああああああ!!」
中畑が絶叫して暴れる。俺は縊り殺さないよう気を付けながら、首根っこを掴んだまま床に押し付けるようにして、跪かせ続ける。淳蔵が達磨屋の横にしゃがみこみ、首を触る。
「んー、この辺かな」
淳蔵が達磨屋に笑いかける。
「どうしたァ? こんな美青年が怖いオニーサンに見えるのかね?」
「なっ・・・なん、で、お、お前らみたいなのが、こ、こんな山奥に、三人も四人もっ・・・!」
「阿漕な商売してきたんだ。楽に死ねないことくらいわかるよな?」
達磨屋の首に、淳蔵が薬を打ち込む。注射器をトランクに仕舞い、きっちりと鍵をかけると、ズボンのポケットからタイマーを取り出した。
「中畑さん」
淳蔵がタイマーを中畑に見せる。五分、設定されている。
「五分でその男をイかせてください」
中畑は暴れるのをやめ、狼狽えだした。
「四人、話してくれましたよ。それなりに金を積みましたけどね。『五分でイかせたら生かして帰してあげる』んですよね? 面白い遊びです。俺達もやりましょう」
「い、いや、いやでずぅ・・・」
「・・・じゃ、」
ピッ、と淳蔵がスタートボタンを押す。
「うっ・・・。うううっ、うわああああああああああ!!」
中畑は髪を掻きむしり、涙を流しながら咆哮すると、達磨屋の男根にしゃぶりついた。
「エッグい遊びだねえ」
美代が言う。都は疲れ果てたのか、美代の膝を枕にして眠っていた。色々なモノから解放され、淳蔵と美代に甘やかされてこころが潤ったのか、穏やかな表情をしている。美代は都が飲み切れなかったソーダを優雅に味わっていた。達磨屋の意味を持たない声と、中畑の呻きと、水音が地下室に響く。
「イ、イがぜまじだあ・・・」
ピッ、と淳蔵がストップボタンを押す。
「四分三十二秒。ギリギリだなァ。じゃ、生かして帰してあげますよ」
「ありがとうございまず・・・。ありがとうございまず・・・」
「じゃ、次。その男に跨って腰振って」
「・・・・・・・・・え?」
「『生かして帰す』と言っただけで、『これで終わり』とは言ってない。だったか? ハン、中畑さんがライバルを絶望の底に蹴り落とす時の常套句ですよ。男は薬のおかげで何発でも出せる状態ですから、中畑さんの身体にたっぷりと教えてくれます。『悪いことをしたらどうなるのか』ってことをね」
中畑は蹲り、泣いた。
淳蔵が『特等席』に都を座らせ、護衛のために隣に座った。と、思ったら、都を包むように抱きしめて自分の髪を触らせ、にんまりと笑いながら都の顔中にキスしたり頬を擦りつけたりしている。
千代が車椅子を置いてドアに鍵をかけ、ドアの前に立って完全に退路を塞ぐと、微笑みを浮かべて中畑と手を繋いでいた美代が舌打ちし、汚物を触ってしまった時のような勢いで中畑の手を振り解き、黙って手を洗い始めた。中畑は意味の無い問いかけや謝罪をしながら、怯えてその場に立ち尽くしている。俺は床に敷いたブルーシートの上に達磨屋を大の字に寝かせ、服を脱がせた。
美代が冷蔵庫から『全血製剤』と冷えたグラスを取り出し、血をグラスに注ぐとストローを差して都の隣に座る。
「淳蔵、お前の死因を言い当ててやろうか?」
「爆発四散とか?」
「俺だよ」
美代は不敵に笑った。
「さ、都。一口でいいから飲んでね。飲んだらご褒美をあげるよ」
都は眉毛を八の字にした。車椅子生活の中で、俺に排泄、特に排便の世話をされることに物凄いストレスを感じて、ここ数日、幼女のように泣いて嫌がって食事を摂っていない。排便の世話をされることは、都が覚悟していた以上のストレスで、都はこれを割り切ることができなかった。
「都、全部飲め。栄養を摂らないとリハビリもできないぞ」
淳蔵と美代が俺を睨んだ。言い方に棘があるかもしれないが、承知の上だ。都はそっと、ストローを口に含んだ。ゆっくり、ゆっくりと、血を飲み干す。
「全部飲んだね。偉いよ」
「まずいー・・・」
「お口直ししないとね」
なんの『処理』もしていない血だ。飲めば力が漲るが、当然、不味い。美代はグラスを持ってソファーを立ち、シンクにグラスを置くと、『ご褒美』の用意を始めた。冷やしてある洒落たグラスに炭酸水とメロンシロップを注ぎ、マドラーで混ぜて、少し炭酸も抜く。そっと氷を浮かべ、バニラアイスをディッシャーで掬い、氷の上に乗せる。最後にサクランボの缶詰を開けてサクランボを一つ取り出し、バニラアイスの横に添えた。
メロンソーダフロート。
テーブルにコースターを置き、ソーダを乗せ、スプーンも添える。都は花が綻ぶように笑った。都の隣に座り直した美代が滲んだ涙を指で拭い、グラスを持ち上げてストローを抓み、都の口元に差し出す。都がストローを口に含み、ソーダを吸う。中畑が都の名前を呼びながら近付いてきたので、俺は弾き飛ばした。
「美味しい?」
「とっても・・・」
「残していいからね」
淳蔵が都の身体から腕を解き、立ち上がる。そして、達磨屋の頭上、ブルーシートの上に黒いトランクを置き、鍵を開けた。俺は中畑の首根っこを掴んで、達磨屋の開いた足の間に跪かせる。
「ごめンなざいぃ・・・! 許じでぐだざいぃ・・・!」
淳蔵がトランクの中から薬の入った瓶を取り出し、注射器の針を刺して薬を吸う。そして、人差し指でぴんっぴんっと弾いて空気を抜いた。中畑がガタガタと震えだす。
「なっ、なっ、なンでずがぞれぇっ!!」
「ん?」
『久しぶり』で集中していたのか、淳蔵が、ちら、と中畑を見たあと、爽やかに笑いながら振り返った。
「ああ、安心しろよ。俺、『プロ』だから」
「いやあああああああああああ!!」
中畑が絶叫して暴れる。俺は縊り殺さないよう気を付けながら、首根っこを掴んだまま床に押し付けるようにして、跪かせ続ける。淳蔵が達磨屋の横にしゃがみこみ、首を触る。
「んー、この辺かな」
淳蔵が達磨屋に笑いかける。
「どうしたァ? こんな美青年が怖いオニーサンに見えるのかね?」
「なっ・・・なん、で、お、お前らみたいなのが、こ、こんな山奥に、三人も四人もっ・・・!」
「阿漕な商売してきたんだ。楽に死ねないことくらいわかるよな?」
達磨屋の首に、淳蔵が薬を打ち込む。注射器をトランクに仕舞い、きっちりと鍵をかけると、ズボンのポケットからタイマーを取り出した。
「中畑さん」
淳蔵がタイマーを中畑に見せる。五分、設定されている。
「五分でその男をイかせてください」
中畑は暴れるのをやめ、狼狽えだした。
「四人、話してくれましたよ。それなりに金を積みましたけどね。『五分でイかせたら生かして帰してあげる』んですよね? 面白い遊びです。俺達もやりましょう」
「い、いや、いやでずぅ・・・」
「・・・じゃ、」
ピッ、と淳蔵がスタートボタンを押す。
「うっ・・・。うううっ、うわああああああああああ!!」
中畑は髪を掻きむしり、涙を流しながら咆哮すると、達磨屋の男根にしゃぶりついた。
「エッグい遊びだねえ」
美代が言う。都は疲れ果てたのか、美代の膝を枕にして眠っていた。色々なモノから解放され、淳蔵と美代に甘やかされてこころが潤ったのか、穏やかな表情をしている。美代は都が飲み切れなかったソーダを優雅に味わっていた。達磨屋の意味を持たない声と、中畑の呻きと、水音が地下室に響く。
「イ、イがぜまじだあ・・・」
ピッ、と淳蔵がストップボタンを押す。
「四分三十二秒。ギリギリだなァ。じゃ、生かして帰してあげますよ」
「ありがとうございまず・・・。ありがとうございまず・・・」
「じゃ、次。その男に跨って腰振って」
「・・・・・・・・・え?」
「『生かして帰す』と言っただけで、『これで終わり』とは言ってない。だったか? ハン、中畑さんがライバルを絶望の底に蹴り落とす時の常套句ですよ。男は薬のおかげで何発でも出せる状態ですから、中畑さんの身体にたっぷりと教えてくれます。『悪いことをしたらどうなるのか』ってことをね」
中畑は蹲り、泣いた。