百八話 惨殺

文字数 2,060文字

「都様ァ、ジャスジャスってなんでも食べますよね?」

「なんでも食べるわよ。布、革、金属、ガラス、プラスチック、毒もね。食べ過ぎるとお腹を下すけど・・・」

「優秀な食いしん坊ですねェ。では、指に釘打ちなんて如何でしょう?」

「鞭打ちの次は釘打ち? キリストの磔刑みたいでいいわねえ。ジャスミンの鉄分補給にもなるし」

「あははっ! むかーし見たアニメでやってたんですよォ、私のアイッデーアー! じゃありませんよっ」

「アニメでそんなこと放送するの? 世も末ね・・・」


浩がガタガタ震えている。直治が浩を拘束台に寝かせ、身体を固定する。浩が暴れ始めた。


「暴れたら指が折れちゃいますよォ?」


拘束台は、指折り器具を着けるために手の指の第三関節を固定できるようになっている。直治が本当に指を折る勢いで固定し始めたので、浩はこれからやってくるであろう痛みよりも今の痛みに負けたのか、大人しく従った。直治が棚からトンカチと釘を持ってきて、都に渡す。俺と淳蔵はソファーから立ち上がり、拘束台の横に立って浩の顔を見下ろした。


「おねがいじまずぅ! やめでぐだざい! だずげでぐだざいぃ!」

「えー? どうしようかしら。これ以上ないくらいみっともなく命乞いしてくれたら、考えてもいいかも?」


都が少女のように笑って言う。


「ず、ずみまぜんっ! ずみ、ずみまぜんでじだ!」

「謝罪の仕方もわからないのか? 『ゴキブリさんにも劣る害虫のぼくちゃんが恐れ多くも都様をお慕いしてしまって申し訳ありませんでした』って言うんだよ」


突然、激怒している時の口調でそう言ったので、ついに怒ったのかと思ったが、都はかわらず少女のように笑っていた。


「ご、ゴキブリさんにも劣る害虫の僕がぁ! 恐れ多くも都様を、おしっ、お慕いして、しまって、申し訳、ありませんでしたぁ!」

「それで終わり?」

「ずみまぜん・・・! ずみまぜん・・・!」

「『来世は汚泥に生まれ変わって蠅さんと蛆虫さんを精一杯楽しませる汚物になります』。はい、どうぞ」

「ら、来世は汚泥に生まれ変わって!! 蠅さんと、蛆虫さんを、精一杯楽しませる汚物になります!!」

「『次、生きものに生まれ変わったら、自分で去勢して、二度と女性に迷惑をかけないよう、じめじめした暗い隅っこの方でお日様の光を一切浴びずにカビと埃を食べて一生を終えます』。どうぞ」

「次ぃ!! 生きものに生まれ変わったら、自分で去勢して、二度と女性に迷惑をかけないよう!! じめじめした暗い隅っこの方で、お日様の光を一切浴びずに!! カビと埃を食べて一生を終えます!!」


都の口から、次々とぞくぞくするような罵倒が出てくる。俺は再び勃起しないよう、深く息を吐き続けた。淳蔵はにやにやしながらずっと舌なめずりをしていて、直治はシャツを引っ張っていた。千代はうっとりと聞き入っている。


「んー、面白かったけど、やっぱり駄目。助けてあげない」

「そん、」


コンッ!

直治が指の先をおさえつけて固定していた人差し指の第二関節に、釘が刺さった。文字や言葉では形容できない絶叫が地下室にこだまする。


「痛みでショック死するのが先かな? 耐えて次の拷問にいっちゃうかな?」


直治が指を放す。都が人差し指の第一関節に、釘の先をそっと添える。

コンッ!


「親指を除くと十六個あるから、あと十四個かあ。ショック死が先かなぁ?」

「だずげでえええええ!! だずげでえええええ!! たかがズドーガーに、ごごまでずるなんで、ぐるっでるううううう!!」

「『たかがストーカー』? 面白いことを言うのね。そのストーカーさんはナイフを持って不法侵入して、私をレイプして絞め殺すつもりだったんでしょ? 狂ってるのはどっち?」

「やっでないいいいい!! やっでないいいいい!! 未遂だああああああ!!」

「ごめんなさい、仰っている意味がちょっと」


コンッ!


「直治様、慣れてますねェ」

「都とは長い付き合いだからな」


コンッ!


「あんま血ィ出ないんだなァ」

「純粋に拷問するの久しぶりだから、楽しいわね」


コンッ!


「うーん、痛そうだなあ、全然可哀想だとは思わないけど」

「美代がそう言うなんて、よっぽど痛いんだな、これ」


コンッ!


「・・・あら、死んだ?」

「死んだな」

「死んだね」

「死んだな」

「死にましたねェ」

「根性が有るのか無いのかわかんない男だったわね」

「失禁はしてるけど脱糞はしていないので、根性無いけど有るんでしょうねェ」


千代がオムツを外し、直治が拘束を外す。釘は指に貫通させたまま、拘束台から釘抜きで抜いた。

かりかり。

ジャスミンが地下室のドアを引っ掻いている音だ。


「入れてあげて」


千代が鍵を開けてジャスミンを中に入れてやる。ジャスミンは浩の死体の首根っこを咥えると、ずるずると引き摺ってどこかへ持っていった。


「いいのかい?」

「ジャスミンにも考えがあるみたい。誰か、こいつの所持品燃やしておいて」

「俺が燃やしておくよ」

「美代、ありがとう」


俺は笑って頷いた。

浩の所持品は、燃えるモノは庭の奥まったところで燃やした。空が白む。夏の暑い夜は終わった。
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